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[コメント] クーリンチェ少年殺人事件(1991/台湾)

4時間の超濃厚映画体験。長いのではなく濃くて深いのだ。
pinkmoon

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







エドワード・ヤンの初観である。 当時、キネ旬の上位に選出され気にはなったが足が向かわなかったことを何となく覚えている。。 25年経って観れて正解だ。 当時の自分ではこの映画の良さは分からなかっただろう。

オープニング、受験結果に抗議して帰ってくる小四と父親の長回しのカットで、監督の映画へのアプローチが分かった。やはり時間ではないのだ。 キャンバスに絵を描くように、そのシーンの空気感をしっかりと収めることが何より重要なのだ。 小四と小明の会話シーンを木戸に写るわずかな影だけで追っていたシーンがあったが、全くもって自然である。しかも美しい。 映画途中からどの場面を切り取ってもフェルメールの絵画のような印象だった。4Kデジタルリマスター版の恩恵なのか。 また出てくる愛称が小猫王とかハニーとか217とかいちいち洒落てて笑えた。。

映画は台湾情勢の影響を受けた親たちの不安定な心理を、子供たちが敏感に感じ取り、生き抜く術を見つけ貫き通す。 しかしそこはやはり子供、ジワリジワリと追い詰められていく。 どう見ても外見は子供だが、それとは不釣り合いな成熟した精神とのギャプに違和感を覚えた。 ちょうど子供の学芸会で背伸びした演目を延々と演じているような感じか。 しかしやってることはほぼヤクザですね。 そうでもしないとエネルギーの持って行き場がなかったのだろう。 それが当時の台湾そのままを現しているのかもしれない。

・信念を貫かなければ生きる意味がないと外省人の父親が言う。

・この社会と同じで何も変わらないと恋人の小明が言う。

・かくして衝突と衝動が起こる。

いつの時代にも無意識に男性を惹きつけて面倒に巻き込む小明のような女性が存在する。 得てして小四のような純粋で正義感の強い男性が巻き込まれる。

途中、同じ台湾の哀愁を描いた悲情城市が思い出された。 悲情城市では外省人の弾圧に苦しむ台湾人家族を描いたのに対して、 この映画では真面目で融通の効かない外省人の父親の苦悩が描かれていたのが対照的だった。

4時間、確かに長いが、その時間に比例する以上に当時の台北の空気感と子供たちを取り巻く濃密な人間関係と苦悩がどっぷりと伝わってきた。

The 映画である。

(評価:★4)

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