メジャー映画で主役を張れる力量をもった３人のアーティキュレーションを堪能できるというだけでも興味深く、人間ドラマの陰影を浮き彫りにしたサスペンス空間のテンションとムードの醸成技術は、前作『ブラッド・ワーク』の反省から生かされたイーストウッドサスペンスとでも呼びたい成果である。確かにラストシークェンスの転じて結ぶという方法に短絡的とも取れる粗い仕事がないでもないが、トム・スターンとのコンビによるシリアスなドラマの手法を確実にものとしたひとつの達成は評価できる。これまでのイーストウッドのフィルモグラフィを顧みると、常にその作品群には「オレ度」の濃淡が反映した結晶であったが、ここではじめてそうした自己言及を希釈しながらメッセージを醸成するという作劇手法の到達を見せた。本作はその意味でイーストウッド映画史のマイルストーンとなっていて興味深い。以降、イーストウッドは映画の外から映画を作為するという操作性を手にして映画に取り組むようになる。本作から５年後の作となる事実に材を採った『チェンジリング』は、この地点からの大きな飛躍であったことを示したい。