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[コメント] チャップリンの 黄金狂時代(1925/米)

喜劇の哀愁の部分がドラマ構成の絶妙なトーンとなっていてGOODなサイレントコメディ
junojuna

 盟友ダグラス・フェアバンクスによって見せられたアラスカのスライド写真から生まれたといわれる本作。飢えと酷寒を前にしながら生命を賭したゴールドラッシュに沸く人間性というスケールの大きな物語に挑戦し、かつユナイテッド・アーティスツでのチャーリー主演第一回作品ということも相俟って、チャールズ・チャップリンの作家性を前面に打ち出したこの作品では、チャーリーというキャラクター像の集大成を披露しているかのごとく、それは見方を変えればチャーリーというキャラクターの歴史に休止符を打つかのごとく、そしてチャップリン本人をして「本作でのチャーリー像が理想」と言わしめた施しとなり、チャップリン映画の新たな方向性を指し示す野心作として成功した内容であった。  ギャグアクションはスケールの大きさを手にして奔放な活劇性を獲得しており、このあたりはその手のアイデアをギャグに移し替える達人であったバスター・キートンをも凌駕する妙技を見せ、また、そうしたスケール系の大柄なコミックワークを実現しながら一方でチャップリンの専売特許ともいえる繊細な観察眼による小手先のコミックワーク(パンのダンス、靴の食事、ジョージアとのダンスなど)にも冴えを感じさせるパフォーマンスは見事の一言であった。しかし、やはり本作がこれまでのチャップリン作品と大きく趣を異にすることとなったのは、ドラマ性の主題化というものが大きいだろう。それはアイデアの源泉が今までのようなギャグアクション先行型ではなく、先述したアラスカでの入植民による過酷な史実という、悲劇性を孕んだ人間ドラマの抽出が命題となったことである。そうしてその主題群を支える劇的構造が、チャップリンの作家性がもつユーモアとペーソスを刺激作用し最大限に膨らんだ結果、映画史上稀に見る傑作を生み出したことは感動的である。  「チャップリン映画の最高傑作」という呼び声も高い本作。人間性の形而上的側面をシンプルかつ繊細な表現で提示することを可能にした貢献は、映画史の最高傑作の部類に入る。

(評価:★4)

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