ファルスを中心とした笑劇を主題としてきたチャップリンが、ドラマに主眼を置いてユーモアを語りの手法としてまとまりのある構成をものにした上々な一品である。人間性の振幅をシンプルに提示するドラマのつくりは、主題の明確な表象を可能にして豊かなカタルシスの醸成に成功している。強いて言えば前半の流れが多少冗長な様相を呈しているが、後半のシーンごとの豊かさはまさにチャップリン全盛期といえる力強さがある。そして、真に喜劇作家（ゴダール、小津を含む）は子供の扱いに手を抜いた所が一切ないのが潔く、またその辛辣な表現とも思える演出は観察力が豊かな作家ならではの真骨頂だろう。あの子役に対する演出は尋常ではない。演出が尋常じゃないのか、子役の演技が尋常じゃないのか、いづれにしても尋常ではない情景がフィルムに刻印されている。昨今の映画作品ではまず目にかかることはないであろうし、「子供映画史」というものがあれば間違いなく筆頭に位置すること請け合いの特殊フィルムである。この作品を最後にチャップリンはファースト・ナショナルを離れることになり、また短編喜劇の世界を卒業することとなる。本作はチャップリン史一時代の岐路に位置する作品としても貴重。