フィルムのブリーチ、スリリングなカメラの視点など、スピルバーグの意図する戦争スペクタクルのビジュアルセンスの発露には充分に興奮できる仕上がりだが、いかんせん自らが戦争ものという題材に感傷的なヒューマニズムを配する施しの甘さを見せて映画が弱体化するという憂き目にあっている。あきらかにオスカーレースへ目配せする作為が否めない老練な仕事となってしまって残念だ。よいではないか、戦争アクション巨編で。善悪の彼岸に依らず、生死を賭した男たちのサバイバルな状況を下手な感傷を排しそのヴァイオレンス豊かな描写でもって徹底的に描いていたとすれば、その天才スピルバーグゆえの映像技術の高みでもって類まれな一巻となっていたであろうことは容易に想像できる。映画は映画なのだ。 そこに反戦もヒューマニズムもいらない。時にそうしたメッセージを晒すような映画のあり方が道徳的プロパガンダ臭の強い押し付けがましさで存在感を強調する場合がある。と、ここまで言いながら、スピルバーグは本作でそこまで「戦争はいけない」というようなことを語っているわけではないのだが、その自らが設定する世界観に内省的な視点が感じられないところに「戦争もの」を扱う視座が見えずそれ以上の深みには達し得ない。良くも悪くもスピルバーグの映画であった。