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[コメント] 蛇にピアス(2008/日)

子供の観念に大人の論理の批評性が希薄で映画に厳しさがなくSO-SO
junojuna

 ひじょうに視野が狭く閉塞的。さらには身体の装飾というモチーフがありながらもデカダンス的な魅力すら描写できなかった無念の作である。文学界の新鋭・金原ひとみの観念小説に演劇界の巨匠・蜷川幸雄が何のレトリックをも弄することができなかった。芥川賞受賞作ともなった文学を映画にするということに込められたものは何であったのだろう。創作者として大人の齢にあるはずの蜷川幸雄の視点に特別な意味は何もなく、単なるイベントムービーに担ぎ出された哀れな帰結となってしまっている。映画ににじみ出ている文学的感傷と演劇的造作。この二点によって算出された佇まいとしての体格はあれど映画的興奮を生むまでには至らなかった。象徴的に読むとすれば身体的な痛みを通過できる精神性の優位が特権者としての自意識であることをその代償行為において認めようとする感傷があり、しかしそうした青春期特有の憂鬱、孤独感の相貌が最後まで現れないのは主人公には抑圧として存在する大人の論理が映画においてはまったくの不在であるからなのだ。残念ながら人間の混沌たる峻厳を読めるのは小説であってこの映画ではない。その点で本作は小説内映画として矮小なるスケールを露呈している読み込みの足りない作品である。 

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ダリア[*] Orpheus sawa:38[*]

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