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[コメント] 断崖(1941/米)

テーマとサスペンスのバランスがBADなヒッチコック作品
junojuna

まさに時代の遺物という言葉がピッタリな残念な作品。ハリウッドに渡ってからのヒッチコックの苦渋ぶりがうかがえるとても視野のせまい出来栄えである。たかだか疑惑の影の習作であるにすぎないし、疑惑の影においても決して最良ではなかった。愛する夫を疑ってしまう妻の苦悩というテーマを、ゴリゴリのサスペンスで描こうとするのは、テーマ論的に言ってもやはり無理があるのだ。さすがに主演を汚れ役に設定することは時代的にも無理があったろうし、このテーマであれば、もっと人間臭い、嫌味たっぷり醜い人物造形がなければシュールなサスペンスを生み出すことは不可能であった。心情サスペンスの旨みとはやはりグロテスクな人間像が必要だ。疑惑をもたれる側も、疑惑を持つ側も、欲望がむき出しになるところに生死を選択する逡巡への力学が生まれる。キレイ事ですまされてしまう人間ドラマをいくらテクニックであおろうとも、サスペンスの座りの善し悪しは画面に紛うことなく現れるのだ。女性の、妻の疑惑であるならば、なおのこと色恋沙汰であるほうがよかっただろう。映画術だけでは映画とならない。

(評価:★2)

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