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[コメント] 硫黄島からの手紙(2006/米)

人物相関によるプロット展開が不明瞭でテーマが浮かび上がらないSO-SO戦争映画
junojuna

 映画の内側でその才気を奮うことにより天然の映画力を見せ付ける稀有な作家であったイーストウッドであるが、本作は老練な経験から導き出された映画の外側からの操作という昨今のイーストウッドの作家性が牙のない狼のような佇まいで大人しい机上の凡百を手掛けてしまったという不振の作である。ここでは全くといっていいほどイーストウッド映画であることを想起させるサインを拒否して、新たな地平への投擲ともいえる挑戦的な映画の態度を示している。しかし、新たなトラックレコードを視野に入れる野心は評価すべきであるが、題材が戦争ヒューマニズムというところが何やら老獪な企みを思わせて怪しげでもある。また映画の素材を硫黄島に求めるまではいいのだが、勝手を知らぬ日本人俳優を扱うという無謀な試みはやはりこの映画の拙さを助長させてしまっている。惜しむらくは、中でも演技ポテンシャルがワールドクラス級と認められているであろう渡辺謙に、イーストウッドのドグマともいえる自己完結性の美学の投影が叶わなかったことが最大の要因である。戦争映画はアクション過多やコスチュームプレイになりがちなジャンルである。劇的な強度が身上のイーストウッドにおいては、入魂すべき一球を間違えると途端に三流のディレクションとなる。

(評価:★3)

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