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[コメント] 紅の豚(1992/日)

劇的なキャラクター造形の妙に尽き、なお郷愁誘う世界観のパッケージングに成功しているGOODアニメ
junojuna

何よりも豚の男前キャラクターの造形の成功がすべてであった。最後の最後まで豚であり続けたところに無類のファンタジーとロマンがかき立てられ、ほぼ豚のままエンディングを迎えるところが好感が持てる。確かに中盤ジーナが持っているかつて人間だった頃の写真を見せてしまう件はやや迎合の感も否めないが、それでも最後に豚の魔法が解けて人間となった様子の際にも意図的に顔を見せないところは徹底している。ドラマとしては決して女々しくないし、豚のまま男前でありきるところは潔い。この描き方であったら、豚という醜男のコードがなくてもただチビでデブでといった二重苦のイメージでキャラクターが立ち回っていたとしても、映画史に燦然と輝く男前というキャラクターを十分に手にしていたことであったろう。それだけ本作の主人公のキャラクター造形は妙なる達成を見せている。まず、主人公マルコは、余計な過去に囚われていない。なんせ自分で自分に魔法をかけ豚になったのだから。しかもそれは反体制を貫いた結果であり、そこには隠遁者の美学が現れて、男のどうしようもない意固地ないじらしさともいうべき感傷が生まれてくる。純粋な飛行艇乗りとして空に憧れ続ける男の姿は、何かに一心に囚われ続けるオタクの姿をも想起させ、本作に愛着を示す宮崎駿の豚のような姿も思い起こさせる。そうだこの豚は宮崎駿との二重写しとなるロマンチックな自画像なのだ。しかし、そこに嫌らしさはない。なぜならここに描かれているナルシシズムが外見上のものではなく、猥褻物として生きることを引き受けた諦念の美学であるために。イタリアアドリア海、第一次大戦期、飛行艇、酒場、蒸気機関などなど、物語を彩る舞台背景も男のロマンに貫かれた意匠に溢れ、夢の一幕を盛り上げてくれる。のちに宮崎駿は本作への愛着を語り、続編を作りたいと意欲を見せたとのことだが、実現するなら再びこのロマンを堪能したいものだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus DSCH[*]

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