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[コメント] マリア・ブラウンの結婚(1979/独)

この女異常です。
かねぼう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







マリア・ブラウンのようなキャラクターは、今までに見たことがなかった。僕はここに映画における異邦人を見る。 結婚を中心に回る彼女の世界は、常識からかけ離れており、彼女には普通の人間なら持っているいくつかの感情、とりわけ恐怖心が欠如しているように感じる。 それは戦争のせいなのだろうか?少なくともこのような人間が生まれた理由には、もはや“戦争”ぐらいしか合理的な理由が見つからないのではないか。それほど、この女がその内面に抱える異常は深いように思える。

浮気相手と寝ていた時に、夫が帰ってくる長回しのシーンが、僕にとっては最も印象的だった。独特の優雅なリズムで演出するファスビンダー。夫の安全を祈りながらも、浮気という不貞を犯すが、夫の帰還と同時に一変して、戸惑うことなく浮気相手を殺すマリア・ブラウン。疲弊しきって特に自分の意思が感じられない夫。 確かに異常な状況ではあるが、それぞれの歯車は狂ったように噛み合い、一種の危険な美しさを醸し出す。

そしてあのラストシーン。結婚が達成された後のマリア・ブラウンの表情は。見る者をゾクっとさせる。彼女が感じているのは、明らかに虚無感である。夢は達成されると、もはやそれを望んでいた時の気持など忘れてしまうのだ。そしてその後に残るのは、疲弊した肉体と形骸化した心である。 あの爆発のシーンは限りない絶望を演出するものであるかの様に思われたが、その絶望はラジオの音によって、皮肉へと変えられてしまった。何かを望む時、我々が陥る思い込みと、その思い込みによって引き起こされる結末に対する皮肉である。 「こんな結末だれが予想し得たでしょうか!!」だって。まったくだ。

(評価:★5)

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