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[コメント] ニューヨーク1997(1981/米)

ガラパゴス化するマンハッタンと本作。
山ちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作の舞台となる監獄島マンハッタンは、極悪非道の監視体制で抑圧された囚人達が生息するアルカトラズ島というよりもむしろ文明から取り残され生物が自由奔放に独自進化を成し遂げ生息するガラパゴス諸島に近い。そこは完全な無法地帯。貨幣もなく奪取、バーター何でもあり。囚人達は、その監獄島から脱出することを許されないが、その閉ざされた特殊空間の中で法にも貨幣にも縛られない自由を享受する。そして、彼らは、独自進化を成し遂げ、多種多様と化していく。そこは多種多様化した人種あるいは変種の集団である。夜行性の人食い集団に、生気のない元祖ビジュアル系。ザンギエフみたいなものもいる。そして極めつけは、何といっても上半身は中世の軍服に身を包み、下はジーパンという異様な恰好をしたこの地の支配者デューク。これら統一感のなさ。いわば変種のるつぼである。この作品の異様な独自性がうかがえる。

 そして、この異様なガラパゴス諸島と化したマンハッタン島に一匹の蛇(スネーク)が潜入する。大統領救出の使命を受けた国家の蛇である。この蛇の潜入により、マンハッタン島の生態系は一変する。この蛇は、異様にでかすぎるアイパッチにレザータンクトップという独特の奇抜な衣装に身を包み、苦難を退け異様な生存能力を発揮し、この地に適応していく。そして、最後には、ザンギエフとのバトルに勝利し、ギャラリーから「スネーク」コールの喝采を受け支持されていく。ここで、マンハッタン島の生態系すなわちデュークによる支配構造が揺らぐ。一匹の蛇の侵入によりマンハッタン島の生態系は崩壊していく。この意味において、マンハッタン島のいわゆるガラパゴス化が始まるのである。

 大統領救出後、スネークプリスキンは、スネークと呼ぶ刑務所長ホークに、プリスキンと呼べという。大統領を生還させた後の空虚さ。そして救出の犠牲となった住人達に対する大統領の配慮のなさ。国家の蛇と呼ぶことを拒否する彼の真意は明白に思う。

 このようにふまえると、本作は、ガラクション(ガラパゴスアクション)というべきアクション映画の新たなフロンティアを開拓した作品のように思える。その全体的な構成から伏線の回収に至るまでの完成度の高さ。しかしながら、細部に目を向けると、例えば、ヒロインらしき女性を序盤であっさり退場させる硬派な潔さ、スネークプリスキンに与えられる武器が映し出されその中になぜかある手裏剣、スネークたちがタクシーでブロードウェイに向かう途中で映し出されるオッサンの首刺しといった間の抜けた感じに、独特のこだわりが散見する。このこだわりこそ私が本作を好む理由の一つであるが、それ故にトップクラスの完成度ながら、この独自性、特異性ゆえに大衆受けするような超大作に達していないように思う。そして、90年代には、本作の存在が薄れていく中リメイクが作られ、当時のCGアクション映画に淘汰されていくように埋もれていく。同年のリメイク作においても、この監督の特異なこだわりは独自に進化を成し遂げ、一層男臭く胸が熱い作品に仕上がっているが、同年のCG映画を見ればそのダサさが散見し、また異様な間の抜けた感じが目に余るようになり、思わず腹が痛くなる。胸が熱くなるとともに腹は痛い。胸熱腹痛アクションである。ある意味お得な作品であったが、ある意味で残念な作品でもあった。これらの意味も踏まえれば本作「ニューヨーク1997」は、二重のガラパゴス化を孕んでいる稀有な作品である。

(評価:★5)

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