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[コメント] 遊星からの物体X(1982/米)

見た目は下品、中身は上品。だがしかし
山ちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 序盤、マクレディがコンピュータ相手にチェスをする。「これなら勝てそうだ」と事態を楽観視するマクレディ。するとコンピュータは、突如局面を打開し、チェックメイト。このシーンはその後の成り行きを暗示しているかのようである。

 マクレディはチェスの名手なのだろう、かなり理性的であり、一歩先ないし二歩先を読んだ手筋をとる。例えば、彼が謎の生命体に乗っ取られたのでないかと疑いをかけられ外に閉じ込められるという絶望的な状況に陥った時、自分が疑われていることを見極めた上で火薬室に侵入し、ダイナマイトで脅しをかけ優位に立ち局面を打開する。

 一方で、謎の生命体もかなり理性的な生命体である。マクレディにフュークス殺しの濡れ衣を着させる等かなり手の込んだ戦術を仕掛けてくる。

 そして、知的な者同士の戦いは、最終局面で明暗が分かれる。マクレディは、血液検査で生きた血を識別するという機知のとんだ戦術で謎の生命体を暴き出すことに成功する。これにより、局面はマクレディらに向けられ彼らの勝利に思えたが、謎の生命体は、ブレアを乗っ取り、発電機を破壊する。発電機を破壊することにより、マクレディらは6時間後には生存を絶たれる一方、謎の生命体は、人間の体内であたかも冬眠するかのように生きながらえる。チェスで言うならば、マクレディ側のキングとは発電機である。言うまでもなく、チェスとは、敵のキングの駒を奪うことで勝利となる。故にここで、チェックメイト−終戦−である。マクレディは、攻撃的な戦術面において長けていたがどうやら防御策を打ってなかったようである。戦術というものが、短絡的なものであり、戦略というものが長期的なもの、というように両者を区別すると、謎の生命体は戦略面においてマクレディよりも幾分も長けていたことになる。というのも、マクレディは、己のキングをどフリーにして短絡的な行動に終始していたのだから。

 本作は、このように「戦略」や「戦術」が要求されるチェス等の知的ゲームで見られる戦いが、人間と謎の生命体との間で繰り広げられている。知性を感じさせる映画である。見た目は下品だが、中身は上品である。しかし、世間ではB級扱いされている。なぜだろう?

 チェックメイトの後、知的なマクレディは、ダイナマイトでいたるところ破壊するというマッチョ的蛮行に出る。そしてこれは、前述のチェスのシーンでコンピュータのチェックメイトに腹を立て、チェス専用マシン内部に酒をぶちまけるという禁じ手極まりないマッチョ的蛮行に至るシーンと重なる。正体を暴かれた謎の生命体がグロテスクな本性を曝け出すかのように知的なラッセルが、最後に本性(=マッチョ)を曝け出す。負けず嫌いなのだろうが、どうも腑に落ちない。そしてその禁じ手極まりないマッチョ的蛮行にひょっこり間抜けな(?)顔を出す知的な謎の生命体・・・。本作は傑作だと思う。しかしそう思いつつもどうにも「惜しい!」という気持ちも拭えない。そこらへんがB級たる所以か。

(評価:★4)

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