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[コメント] ワイルド・スピード ICE BREAK(2017/米)

シリーズに特に思い入れのない身としては今作が一番興奮できた。ただブンブンと空騒ぎするだけではない練り込まれたアクションで、さらに派手な画面とストーリーがちゃんとシンクロしている。氷上を突き進む魚雷と車で併走し、素手で軌道を変えるドウェイン・ジョンソンが最高。
アブサン

シリーズ特有の死の軽さが今回は特にひどい気もするが、アクションの設計がとにかくすばらしいのでそこを評価したい。前作ではトニー・ジャーまで出しておいてアクション自体がいまいちだったが、今回はオープニングからしてよく出来ている。

エンジンむき出しの車でのレース、火を噴きながら後ろ向きでゴールし勝負に勝ったヴィン・ディーゼルだが、ブレーキが利かずに暴走状態、駆け寄って来たレースの観衆に逃げるよう叫ぶが聞こえておらず、即座に判断を切り替えて車を海に落として、事なきを得る。

この一連の状況説明と咄嗟の判断をモタつかずに、尚且つわかりやすく見せている時点で興奮した。これはすごい演出力だ。さらにこの場面でのアクションがクライマックスの爆発シーンとの対比にもなっており、南国キューバと氷のロシアという構図もまたうまいのだ。そこからヴィン・ディーゼルがいつもの人懐っこい笑顔でレース相手を許してやる流れは実にちんこがデカそうで、たいへん見事なオープニングである。

刑務所でのドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムのシークエンスもよい。独房でのノリノリの口喧嘩からすでに二人の化学反応が始まっていて、ガラス越しのシチュエーションをうまくつかった一発芸大会がとにかく面白い。

さらに脱走場面のアクションでは、暴徒制圧用のゴム弾ではビクともせず、手錠を軽々と引きちぎってイーストウッドの息子も余裕でボコるドウェイン・ジョンソンと、ゴツイ体で機転の早さと身軽なパルクールを見せるステイサムと、二人を瞬時に対比させる手際の良さ。パワーとテクニックという単純な構図だが、明快にキャラクターを描き分けるアクションが実に気持ちいい。

それとステイサムに毎回惚れ惚れするのは走り姿。21世紀初頭ですらハリウッドではスタントマンが本気で走らないと言われたが(撮影のために何度も走るから毎回全力疾走は出来ないという言い訳)、ステイサムはきちんと走ってくれる(または走ってるように見せる)。首の沈め方や肩の力の入れ具合がいいのか、走り姿だけでも芝居ができる人でまさにアクション俳優だと思う。後半の赤ん坊を交えたアクションも役柄のギャップとキレのある動きで、なかなかいいアクセントになっていた。

ベルリンの作戦ではいきなりの超大爆発で観客の意表を付いたあと、車の脇をスレスレで横切る巨大鉄球で敵車両を破壊するという予想外のアクション、ニューヨークでの無人ゾンビ車が大量に追っかけてくる不気味なカーチェイス、さらに塞がれた道の両脇のビルから車の雨が降り注ぐという立体的なアイデア、裏切ったヴィン・ディーゼルと仲間たちの心情を体現するワイヤー綱引きと、巧みに「車を使ったアクションと画面の面白さ」が考えられていて、シリーズ8作目にしてこの発想力には驚かされた。

アクションシーンのアイディアは本監督のF・ゲイリー・グレイなのかアクション監督ジャック・ギルによる物なのかわからないが、「どんな情報を伝えるためにどうアクションを設計し、どういう画面で見せるか」という要約力、つまりは演出力が高い人なのは間違いない。(最初はアクションを担当してる2ndユニットのジャック・ギルの功績と思っていたが、今作は彼が担当している他のシリーズよりも頭ふたつは飛び抜けたクオリティなのが不思議。『怒りのデス・ロード』のシャーリーズ・セロンがいたおかげで気合が入ったのか)

そしてクライマックスのロシアでの氷上チェイス。いつもはお間抜け担当のローマンですらスマートな見せ場があって嬉しいし、カーチェイスの途中で氷原をぶち破って登場した潜水艦と追いかけっこし出す画面は、馬鹿馬鹿しくもかっこよくて興奮しっぱなしであった。ドムやデッカードの復活なども詰め込んだ一大シークエンスなのに、格闘場面を挿入したり女性キャラをコンビにする工夫がうまく活き、長丁場でもダレていない。

さらにクライマックスでヴィン・ディーゼルが車から放り出されて、爆炎に巻き込まれることを覚悟し体を固めた瞬間、一斉に仲間の車が駆けつけ炎をブロックして守る!なんて「車と友情」というシリーズのテーマも体現した名シーンじゃないだろうか。追尾ミサイルを潜水艦にぶち当てるときに車が一瞬潜水艦に接触するアクション構成も、なんていうか画面にさらに奥行きが追加されたような迫力で、本当に惚れ惚れするアクションの連続だ。

仲間を裏切るストーリーのため、ノンキないい人フェイスを出さずに常にシリアスなままのヴィン・ディーゼルもよかった。気さくな表情が魅力の役者かと思っていたが、真剣なときの方があのドングリ眼でいろんな表現ができるんだな。この映画が「筋肉ハゲ三銃士」を三者三様見事に魅力的に描き分けてるのって、やっぱり地味にヤバイ演出力だと思う。

脚本も細かい部分が意外にいい。車で綱引きするシーンでは喋りまくる仲間に対して一言も発さないヴィン・ディーゼルの孤独がちゃんと際立っていたし、彼の車の強さを仲間たちが「2000馬力ある」「いや3000馬力だ」と言い合うなかでかつての敵であり新参のステイサムが「…5000だ」としれっと参加する面白さ(そして復活シーンではちゃっかり『アドレナリン』のパロディも)、これだけの大人数が登場するなかスコット・イーストウッドが成長する姿も描けているのだから、相当気が利いている。

シリーズファンからは評判の良い作品ではないようだが、単なるアクション映画好きの自分からすると常に興奮しっぱなしの映画だった。「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」とまでは言わないが、豊富なアイデアと練りこまれたアクションの構成は近年ではかなりの出来だ。

あとあまり関係ないが『ゲーム・オブ・スローンズ』勢にちょっと嬉しい配役なのも個人的にポイントです。

(評価:★4)

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