コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] スペース カウボーイ(2000/米)

大傑作。『ガントレット』のバスのように、あるいは『マディソン郡の橋』のテール・ランプのように、ここではソ連の人工衛星がまるで「生き物」のように描かれる。傑出した映画作家はあらゆるモノを人間のごとく演出することができるのだ。
3819695

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アルドリッチ的な「仲間集め」は「再会」という要素も加わり、それだけで見る者の心を揺さぶるにはじゅうぶんだ。イーストウッドの顔を認め、飛行士時代の話を始める牧師ジェームズ・ガーナー。イーストウッドをボケ老人扱いするドナルド・サザーランド。自動車のイーストウッドと飛行機のトミー・リー・ジョーンズによる四十年の時を越えた並走。

ほとんどすべてが名シーンなのだが、とりわけラストカットの凄絶さには言葉を失った。月面に横たわるジョーンズ、そのヘルメットのバイザーに映る地球。そして“Fly Me to the Moon”。空前絶後のラストカットだとさえ思う(複雑な移動の末にジョーンズに辿り着くこのカットはしかもイーストウッドのPOVとオーバーラップしながら始まるのだ!)。

ところで、イーストウッドといえば独立独歩の孤高のヒーローといった印象が強いが、ここでの彼は「チーム」を組んでいる。他にチームを組んだイーストウッドが見られる作品としては(監督も兼ねた作品に限れば)『アウトロー』『ブロンコ・ビリー』『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』が挙げられるが、そのチーム内での立ち位置は作品によって微妙に異なっている。

アウトロー』においては緩やかに築かれた擬似家族の大黒柱、『ブロンコ・ビリー』においては精神的・経済的に結ばれた運命共同体の統率者、『ハートブレイク・リッジ』においては職業集団の制度的にも絶対的な権力者/教育者である。

スペース カウボーイ』でもやはりイーストウッドがリーダーであることに変わりはないが、それは先に挙げた三作のチームよりも成員間の関係がはるかに平等なチームでのリーダーである。「平等」とは、第一義的には、チームの諸成員の「性別」と「年齢(世代)」という(キャラクタの最も基本的なアウトラインを決定する)二要素が共通しているということであるが(『アウトロー』のチームには犬までもが加わっていた!)、その平等性はあくまでもイーストウッドの演出によって保証されているということを忘れてはならない(と云ってもジョーンズがやや特権的な扱いを受けていることは否定できないけれど)。

いずれにせよ、イーストウッドがこれほど平等なチーム(と、そこに属する自分)を描いたのは初めてのことであり、何よりそうして出来上がったこの作品の破格の面白さが、イーストウッドの演出家としての突出した力量を改めて示している。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)緑雨[*] DSCH[*] Myurakz[*] ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。