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[コメント] ウィークエンド(1967/仏=伊)

手放しで褒め称えるには退屈なシーンも多いのだが、そんなことに目くじらをたてるのも馬鹿らしくなるほど面白いシーンにも溢れている。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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すばらしい点はいくつもある。最も分かりやすいのは渋滞シーンの長回しドリーだろうが、ミレーユ・ダルクがとても可愛いということはやはり云っておきたいところで、渋滞中に髪を引っ張られたダルクが猫娘のようなポーズで相手を威嚇するところなんて実に可愛らしい。ブルジョワ娘と農夫の記念撮影なども印象深いし、この映画の不穏な空気の創出に対する音楽の貢献についても忘れてはならない。他にもダルクとジャン・ヤンヌが農村地帯の舗道をとぼとぼと歩くショットは『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』を想い起こさせる、などと云ってもよいかもしれない(制作年は本作のほうが早いですけどね)。

しかしこの映画で最もすばらしいのは、「暴力」のヴァリエーションが豊富で、しかもそのどれもが面白いという点だろう。出発前からインディアン姿の子供による弓矢攻撃、その母親はテニスボールを打ってくるし、父親は猟銃をぶっ放す。テニスのショットと発砲を同列に見せるなんて前代未聞のことではないだろうか。

そして何と云っても電話ボックスの男ジャン=ピエール・レオーがよい。タイヤを投げつけるという大変な割には効果が低そうな攻撃をはじめ、自動車の周りをくるくる飛び回りながらダルクには柔道投げを、ヤンヌには肘鉄を食らわせる。期待を裏切らないレオーの活躍は本当に楽しい。

また、(『フルメタル・ジャケット』を先取りしたかのような)覇気に欠けた薄ら寒い終盤の戦闘シーンも暴力に他ならないし、ラストに見られるカニバリズムこそ究極の暴力であるという云い方もできるだろう。

これらの暴力は端的に面白い、笑えるものなのだが、それはゴダールが決して暴力に寄り添わず、かと云って突き放し過ぎもせず、常に適当な距離をもって描いているからではないだろうか。この映画が文明/資本主義批判の映画であるというのはまあその通りなのだろうけれども、その「批判」を可能としているのは、暴力をはじめとしてこの映画で起きる諸々の事柄とゴダールとの間に横たわる「距離」だ。その「距離」はほとんどすべてのショットに刻まれているし、その「距離」の取り方にこそゴダールの天才性がよく現れている。

(評価:★5)

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