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[コメント] 旅芸人の記録(1975/ギリシャ)

前人未到のアクション映画。人がぞろぞろ歩いている、ただそれだけのことが、アンゲロプロスの手にかかればここまで面白くなる、人の心を打つ。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







シークェンス・ショットのみで成り立った上映時間四時間のこの映画が、しかし決して冗長にならないのは「瞬間」が鋭く切り取られているからだ。その瞬間とは、端的にはドラマがアクション映画に変貌する瞬間だと云うことができる。

たとえば、芝居の上演中に一座の男が秘密警察から逃げ出す場面。あるいはバスに乗っていた一座がドイツ軍に連行・銃殺されそうになったところ、ゲリラの急襲によって救われる場面。並のアクション映画が束になっても敵わない密度の濃いアクション演出を見ることができる。だが、そのようなある意味分かりやすいアクション・シーンに限らず、人々がぞろぞろ歩いていることそれ自体さえもれっきとしたアクションとして成立している。この映画で真に驚くべきは「長回し」などという一技法ではなく、一切カットを割らないロングショットにもかかわらず、そこに他に類を見ないほどの濃密なアクションが刻み込まれていることだ。

そして、この映画はミュージカルでもある。どんなに愉快な唄が歌われようと、そこには拭いきれない哀しみがべったりと張り付いている。どんなに痛ましい唄が歌われようと、そこには最終的には「生」を肯定せねばならないという悲劇的な覚悟がある。これほど切実なミュージカルを私は見たことがない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)たろ[*] けにろん[*] ゑぎ

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