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[コメント] 野性の少年(1970/仏)

「教育」はその人間の在り方を根底から変えうる崇高で怖ろしい行為だ。だから誠実なトリュフォーは、トリュフォー的な「愛」でもあるところの「教育」を命懸けのアクションとして撮る。これは野性児という生粋のアクション人間を相手にした命懸けのアクション・メロドラマだ。
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冒頭の森の撮影からもう参ってしまう。モノクロームの木洩れ陽の美しさは唐突に『勇者の赤いバッヂ』を想起させもするが、作為性を微塵も感じさせずに「自然の」美しさを切り取った『野性の少年』の撮影のほうが私は好きかもしれない。

「距離」の演出もすばらしい。確かに「教育」は距離の問題系でもある。それは何も抽象的な意味に限らず、「ときに突き放し、ときに抱擁する」といった身体的な距離という意味も含んでいるが、カメラと被写体との距離や俳優間の距離の操作によって「教育」のドラマを綴っていく演出には、トリュフォーの人間的な暖かさとともに確かな技術的充実が窺える。

もちろんジャン=ピエール・カルゴル少年の演技も感動的だ。所作のひとつびとつもそうだが、何よりも劇が進むにしたがって徐々に目に知性を宿らせていることに驚かされる。演技の要は目(視線)だ。言葉を持たず、もっぱら身体的アクションと目によってキャラクタがかたちづくられるこのカルゴルには、演技と演技演出の本質が詰まっている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ナム太郎[*]

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