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[コメント] ゲームの規則(1939/仏)

無限に豊かな混沌。ひとつの画面で複数の物語が繰り広げられる、眩暈を覚えるほどの多重性。これもまた「世界」の映画だ。
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**ネタバレ注意**
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「規則」の本質は「自動性」だ。規則下にあるものは規則に従って自動的に作動する。そこに意志に基づく完全な自由というものは存在しない。またそれゆえ、そこには不意の、唐突な「停止」がつきまとう。これが「唐突な停止」の映画でもあることは、ローラン・トゥータンジャン・ルノワールの自動車事故、狩猟シーンの兎や雉、自動演奏装置(なんと馬鹿馬鹿しい存在感!)の故障、「現代の英雄」トゥータンの死、といった例が明らかにしているだろう。とりわけ自動車事故の唐突さには心底から驚かされる。これほど「事故が起こりそう」という予感を欠いた事故を私は他の映画で見たことがない。私の映画体験史上でも屈指の驚きだ。

複雑な情景を鮮やかに描き切る大らかな筆致はルノワール的と云ってよいだろうし、喜劇にふさわしい楽しさ・陽気さや熊の着ぐるみ姿のルノワールといった愛さずにはいられないチャーミングな細部にも溢れている。だが、これは同時にどこかしら陰惨なムードがまとわりついた映画でもある。それは陰惨さと云うより「規則」あるいは「システム」の無機的な残酷さと云い換えるべきなのかもしれないが、いずれにせよルノワールの驚異的な演出力が築き上げたひとつの完全な世界を前にして、私はただ圧倒されることしかできない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)モノリス砥石[*] 動物園のクマ[*] 寒山拾得[*]

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