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[コメント] 幕が上がる(2015/日)

五名の少女たちは脚本がシーンごとに書き分けた喜怒哀楽、さらにはそのあわいのグラデーションを繊細かつ切実に演じて、率直に胸に迫るものがある。しかし彼女たちの表情の爆発と身体の躍動が無粋にも禁じられているのには思わず閉口する。たとえカメラがむやみに動き回ったとしてもそれは補償されない。
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**ネタバレ注意**
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「一個の映画作品として面白いか否か」に重きを置く観客一般よりも、作り手たちは長期的な視野を持ってこの映画を企画したようだ。被写体の魅力を最大化するに最も有効な方法である「表情の爆発」と「身体の躍動」を禁じていることこそがその証拠である。「肖像画」を演じる高城れにに対して黒木華が、また「銀河鉄道の夜」の担任教師役を演じる佐々木彩夏に対して百田夏菜子が「動きを抑えて」「動かないで」と演技指導をつける件は、映画自身が「表情の爆発」「身体の躍動」の禁止について雄弁に自白したシーンとして記憶される。すなわち演出家は「魅力を最大化する最も有効な方法を禁じられても魅力的であれ」と主演女優たちを促しているのだろう。一個の映画作品を越えた「長期的な視野」とはその謂である。先人の俚諺によれば「損して得取れ」「負けるが勝ち」「ペナントレースで優勝するためには敢えて敗戦をよしとする試合もある」らしいが、果たしてその演出方針が『幕が上がる』にとって幸福なことだったのかについては、私は口を噤む。

物語の終幕とともに始まる「走れ!-Z ver.-」歌唱・舞踊が全篇で最も感動的であること。演出家はそれを恥ずべきだが、被写体たちは誇りにしてよい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペペロンチーノ[*] アブサン

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