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[コメント] キャビン(2011/米)

ここにもやはり何らかの恐怖が映し出されているとして、しかし「襲われること」「殺されること」といった類のいかにもホラー映画然としたそれであるとするのは最適の見解ではないだろう。全篇を通じて多分に喜劇的な色付けが試みられているから、ではむろんない。最大の恐怖は「管理」の不可能性にある。
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どれほど入念に準備を尽くしても、また機転を利かせて現況に即応しても、不測の事態は常に生じうる。リチャード・ジェンキンスら施設職員は「生贄」「怪物」「神」を三重に管理していたことが終盤までに明らかにされるが、その絶対に失敗してはならない管理に失敗し、取り返しのつかないカタストロフの光景が現出するさまは、絶対に安全であることが謳われた原子力発電所の過酷事故を否応なしに想起させられる。

さて、クリステン・コノリーフラン・クランツが管理体制の打破に成功したのは、「愚者」の役割を担わされたクランツが本当に愚かだったためではなく、彼が最も高い知性と強い意志力を備えていたからだと、結果的には云える。私にとっては彼の造型がこの映画の大きな美点でもあるのだが、ともあれ管理者の見立ては初めから誤っていたのであって、定型崩しはここで作品の一貫性に回収される。それはある種のモラルと云ってもよいだろう。そして「生存」の希求が(怪物からの)「逃走」という行動を導き、それが管理に対する「反抗」であるという構図がもたらすエモーションは、脱獄映画のそれに接近する。さらに最終盤に向かって「反抗」の色合いが濃くなるにつれ、「生存」は価値の切り下げを受け容れる。急角度に見える展開も決して跳躍としてではなく、連続的な推移として行われている。むしろそこが不満であるのだ、と打ち明ける代わりに、私はこれをウェルメイドと呼びたい。

(評価:★4)

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