コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] スリーデイズ(2010/米)

すべて彼女のために』との比較で云えば、上映時間の拡大に比例したエッジの鈍角化は免れていない。もちろんポール・ハギスの確かな力量を認めるにはじゅうぶんの出来栄えだが、その創造力は果たしてどれほど発揮されているか。ラッセル・クロウエリザベス・バンクスでは配役の妙も一段見劣りする。
3819695

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







と云いつつ私の記憶力もたいがい獣並みなので『すべて彼女のために』についても細部はかなり忘却しているのだけれども、作者の興味の焦点が「市井の凡夫が法を侵すこと」という行為そのもの、およびそれに付随する葛藤から、「時間配分のサスペンス」へと移行している印象は確かにある。であるならば、ハリウッド・サイズへのドレスアップとばかり思われがちなゴージャスな作り替えも、必ずしも興行上の要請のみに基づくのではなく、ハギスなりに映画自身の内なる声に耳を傾けた結果なのかもしれない。

さて、ともかく、設計された脱獄計画の綿密さが作品の売りのひとつである以上、リメイクに際しての舞台変更は当然ながら固有名詞を機械的に置換すれば事足りるものではなく、地政学的な妥当性の検討も要求されるだろう。と云ったところでその正否を判定できるほど私は『すべて彼女のために』の「パリ」も『スリーデイズ』の「ピッツバーグ」も知っている観客ではないのだけれども、少なくとも次のことは云える。クロウがバンクスを病院から連れて逃亡するシークェンス内で、彼は地元アイスホッケーチームのファンに紛れることで追っ手の目をくらます。このシーンの面白さの決定的な部分はそのチームが「ペンギンズ」であること、すなわち画面を埋め尽くすモブが揃ってペンギン・マークをあしらった格好をしていることにある。これが仮に「レンジャース」や「パンサーズ」の格好であったら「アイホケの応援客に紛れ込むなんて、クロウさんったらよく知恵を働かしましたね」程度の面白さに留まるところだろう。それならばアイスホッケーでなくともベースボールやアメフット、何なら誰かのコンサート帰りの客でも、単なる「同じような格好をした集団」であれば大差はない。そこで「いや、ピッツバーグにはNHLのペンギンズがあるではないか。逃走シーンの緊張感にペンギン団を挟み込むという滑稽さ、これを使わぬ手はなかろう」とするハギスの演出脳にはやはり信用が置ける。

クロウについては、特にヴァンサン・ランドンと比較してしまうとまったく不満なのだが、このバンクスは決して不味くはない。もちろん幾度もお目にかかっている女優だけれども、ここまでまじまじと見入ったのはこれが初めてかもしれない。典型的な美形の範疇からは外れながらもヒラリー・スワンクレイチェル・マクアダムス系の愛嬌がある。クロウが抱く無実の確信を観客にも要求できる造型ではないし、情緒不安定の芝居も弱いが、「たとえ法を侵してでも彼女を救い出さねばならない」の一念は共有できる。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。