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[コメント] ツリー・オブ・ライフ(2011/米)

この画面に対する評価語彙として適切なのは「美しい」ではなく「鮮明」である。その鮮明さは、映画が観客の瞳に届くまでに介在する幾多の機材の性能を証しこそすれ(映写機/プロジェクタを含め。私が見たのは明らかにDLP上映でした)、撮影部・演出部の労働が高い技術を誇っていることを意味しない。
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なぜなら彼らはカメラを三脚に据えることすら満足に知らないのだから! というのも半分は冗談だけれども、半分は本気で思う。突然ザウルス系が出現するなど鬼面人を驚かす展開については、あまりに馬鹿馬鹿しいことを本気でやっていて必ずしも嫌いになれないが、しかしもう少しばかり面白くてもよくはないか。テレンス・マリックは着想に自足している。ここをスタンリー・キューブリック2001年宇宙の旅』類人猿シークェンスと並べてみれば瞭然となるが、『ツリー・オブ・ライフ』に欠けているのはストーリ性ではなく演出である(その意味で、家族ドラマのパートは決して不味いところばかりではありません。ところで、「映画」が必要とするのは演出であってストーリ性ではない! というのは本当でしょうか? 答えはルイ・リュミエールの傑作群にあるでしょう)。

ブラッド・ピットについても触れておきたい。アイドル的な人気を得て栄達を遂げた人なのでいまだに誤解されているところもあるようだけれども、現在ピットよりも優れた主演俳優はアメリカ映画界を見渡しても数えるほどしかいないだろう。画面を自らに引き寄せる視覚的支配力とでも呼ぶべきものに関しては、(「強権的な父親」と「その息子」という役柄の違いを差し引いても)ピットはショーン・ペンでさえ及ばぬほど強力な被写体であると、ここで多くの観客の目にも明らかになったのではないか。加齢も容貌に言語化不能の陰影を与えており、眼鏡をかけた顔の在りようは『成功の甘き香り』のバート・ランカスターのように複雑だ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] セント[*] 緑雨[*]

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