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[コメント] イップ・マン 序章(2008/香港)

ドニー・イェンの強さの秘密、なんて云うとちょっと大袈裟だし、また私は格闘技や武術の類についてはまったくの無知を誇っている者だけれども、映画を見つめる限りにおいては、ここでの彼の格闘アクションの特徴は徹底して「後の先」を取ることにある、と云えるだろう。彼は絶対に先制攻撃を仕掛けない。
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まず相手をしっかりと見て、感じること。しかる後に素早く、正確で、簡潔な動作を繰り出すこと。このドニー・イェンにおいてキャラクタの思想とアクションの思想は完全に一致している。そしてその素早さ・正確さ・簡潔さは、度を超すあまりに、ときにユーモラスに映りさえする。端的には木人椿トレーニングのシーンがそうだろう。素人目には「本当にこれでトレーニングになっているのかしら」と疑わしく見えるという点も含めて、木人椿を前にした無心のドニー・イェンの動作は巨大な知育玩具を相手にしているかのような可笑しみを隠し持っている。

最良のカットとしては、工場の労働者たちが路上で詠春拳の修業をする俯瞰のカットを挙げたい。ただの集団ではなく、文字通り「老若男女」揃っているというところがすばらしい。志を高く持っていなければこのようなカットは生まれない。云い換えれば、物語とアクションの面白さを追究しようとする演出家の真摯な姿勢がここにあらわれている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus ハム[*]

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