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[コメント] 127時間(2010/米=英)

酷い侮蔑を込めて云えば、ここでダニー・ボイルがやっているのは文学だ。むろんボイルもただのド阿呆ではないから「あ、このままじゃ映画にならん」と気づき、いつにもまして撮り方に奇を衒って画像処理に精を出す。が、それがダサいと云ってるんだ。サイモン・ビューフォイA・R・ラフマーンも同罪。
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**ネタバレ注意**
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云い換えれば、シンプルな状況を扱った映画が退屈に陥ってしまうことを恐れ、様々の装飾を施すこと。それが演出だという考えが大きな勘違いだ。シンプルな状況をシンプルに描いてなおかつ面白いこと。それこそが演出力が働いた証拠にほかならない。しかし、私にしても装飾それ自体を否定はしない。渇きや痛み、時空を越えて展開する妄想・幻覚の特殊効果を伴った表現、あるいはスプリット・スクリーン。それらが感心できるものに仕上げられていれば私はこれを支持する。だがどうもそうなってはいない。

ただし、これが全面的に無価値な映画だと云うつもりもない。主要舞台となるいかにも「スタジオで撮りました」風の隘路はつまらないが、渓谷の遠景カットはさすがにアメリカ映画・ロケーション映画ならではの風景だ。ジェームズ・フランコが腕を挟まれた直後に助けを求めてケイト・マーラアンバー・タンブリンの名を叫ぶシーン、接写から大俯瞰へと移行するカメラの(擬似)急上昇なども(これだってダサいのだけど)やはり目を惹きはする。他にも、郷里の母親からの電話を疎んじていたことを後に悔いる、なんていうのも親不孝の放蕩息子としては身につまされる。こういうところで初めてフランコのキャラクタが魅力的に起ち上がってくる。『東京物語』の大坂志郎が云うように「孝行をしたい時分に親はなし。さればとて墓に蒲団は着せられず」である、と分かってはいるんですけどね……。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)緑雨[*] disjunctive[*] Myurakz[*]

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