[コメント] RED レッド(2010/米)
映画は拍子抜けするほど静かな起ち上がりを見せる。装飾品どころか実用的な小物の類もほとんど見当たらない生活感ゼロの住居を作って違和感を育むなど撮影チームもしっかり仕事をしているが、しかしここがウィリスという強い引力を持った被写体によって演じられたシーンでなければ、観客は早くもこの映画を見限ってしまったことだろう。続いて侵入者を相手にしたウィリスの見事にプロフェッショナルな立ち回り。そして程度を弁えない『ガントレット』な家屋蜂の巣。「こういう映画ね」と了解した私は思わず知らずこれを応援してしまう。
さて、この企画の妙は主人公チームを退役した元諜報員に設定したことでもなければ、彼らが高齢であることでもなく(それだけのことであれば、『スペース カウボーイ』から一〇年遅れて登場したこの映画の骨格は演出家の力量差を差し引いても貧しいものだと云わなければならないでしょう。というのは、「再会」の演出に趣向がないからです)、モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ、ヘレン・ミレンというこの種の映画には縁遠いと思われた(すなわち役柄に適していないと思われた)俳優たちをキャスティングしたことだろう。ここで問題とされているのはあくまでもパブリック・イメージである。厳密にフィルモグラフィを振り返れば、彼らにしても荒唐無稽なアクション映画には少なからず出演している。他方のウィリスは実年齢を鑑みれば諜報活動から退いているという設定に不自然なところはないはずだが、やはり配役の理念は「知命を越えながらもいまだ現役バリバリ」という彼のパブリック・イメージを逆手に取ったものだ。そこに不器用な恋愛を絡めてくるのも楽しい。ただし、メアリー=ルイーズ・パーカーは決して悪くないが、『ナイト&デイ』のキャメロン・ディアスを見てしまった後ではちょっと物足りない。
ブライアン・コックスやリチャード・ドレイファス、そして極めつけにはアーネスト・ボーグナインなど、キャストの見どころは際限を知らず増殖するが、REDに対抗するべき「若僧」がカール・アーバンではどっちつかずなところがある。生意気さと賢さを漂わせる面構えは役に合っているけれど、ここも主演級のスターにするか、あるいはもっと若年の人を連れてきたほうがよかったかもしれない。また、フリーマンの退場の仕方も「長期間の拘束ができなかった」というような舞台裏の事情を邪推させてしまって無粋だ。
撮影者はこのところ度々名前を目にするフロリアン・バルハウス。こんな名前そうそうないよな、と思ったらやはりミヒャエル・バルハウスの息子さんだそうです。ファスビンダーとスコセッシの人だったお父さんに対してロベルト・シュヴェンケのお抱えカメラマン(?)ではいかにも分が悪いですが(いや、シュヴェンケについては世評よりも高く買っているつもりですが)、私が見た限りの過去作でもなかなかいい仕事をしていたので、これからも期待してみたいと思います。ハリー・ストラドリングJr.、はちょっと微妙かもしれませんが、ブルース・サーティースのような例もありますし。
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