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[コメント] あの日、欲望の大地で(2008/米)

ギジェルモ・アリアガは初長篇監督作でもこれまで手掛けた脚本作と同じく物語に複数の時系列を設定する。馬鹿のひとつ覚えかと悪態でもつきたくなるが、異なる時系列への移行に際してもカット繋ぎに徹する潔さには好感が持てる(だから、そもそも序盤では時系列が複数であるのかどうかも判断できない)。
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やたら重いテーマを分厚く語りながら最終的には「で、だから何?」としか云いようがない脚本を書くことでお馴染みのアリアガは、要するに演出家次第の脚本家だ。駄作と決めつけるにはいささか腰が引けるもののどうにもつまらないアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作と、面白さだけで埋め尽くされたトミー・リー・ジョーンズの傑作『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』。演出家としての彼は果たしてどちら寄りなのか、というのが映画を見る前の興味の中心だったが、まあ結局はどちら寄りとことさら云うものでもない、しかし「画面で語る」ということにはだいぶ意識的であることが見て取れる作品に仕上がっている。

オープニング間もなくの、シャーリーズ・セロンが全裸で窓際に立つカットがまず馬鹿馬鹿しくてよい。格式張ってはいないがそこそこ高級そうなレストランで彼女は働いているが、「ちょっと煙草休憩」か何か云ってそこを抜け出すと直後のカットは海を臨む断崖。というのも意表を突く空間感覚だ。農薬散布機を予兆なしに(煙を上げる飛行機のカットやコックピットで「ヤバイ。故障だ」とか云うカットを挟んだりせずに)墜落させてしまうあたりにも映画勘の鋭さを感じる。また、クレジットされている二名の撮影者がどういう分担をしたのかは知らないが、荒野でトレーラーが炎上するカットの力強い暴力性と美しさも特筆に値する(このカットが『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の油井炎上シーンを彷彿とさせることから、ここを含む国境地帯パートはロバート・エルスウィット撮影ではないかしらという気がします。間違っている可能性は大いにあります)。

以上のような細部の面白さはキリがないというほどではないにしても他にもあって、たとえば「ロミオとジュリエット」パターンの許されぬ恋に落ちるジェニファー・ローレンスJ・D・パルドは、鳥を石で打ってその場で丸焼きにして食うとかサボテンを燃やすとか各自で腕を焼くとか、まるでティーンエイジャーのデートらしからぬ逢瀬を重ねる。こうした一歩間違えば笑いのほうに振れてしまいかねないシリアスさも面白い。

複数の時系列間の関係が明らかになって物語の着地点が見えてくる後半部にあっても頑張ってそれなりの緊張感を維持しているし、このような物語を(露悪的な方向に落とさずに)ハッピー・エンディングに持っていくというのも覚悟を要したことだろうと思う。ただし、「結局このセロンは何もしてないんじゃないか」という思いは残る。このハッピー・エンディングはセロンの娘なりその父親なりがセロンを許し、セロンを探し、セロンを待ったからこそのもので、そこにセロンの貢献はない。セロンはこのハッピー・エンディングに浴するに値する行動を何ひとつ取っていないのではないか。標準的な劇映画の骨法に照らしてみる限り、何とも収まりの悪い結末だと云わざるをえない。

(評価:★4)

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