[コメント] ノーカントリー(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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この映画にテーマなるものがあるとすれば、それはトミー・リー・ジョーンズの物語をジョーンズではなくハビエル・バルデムとジョシュ・ブローリンをして語る、という構造自体が端的に示しているだろう。しかしそんなことはどうでもよく、というかどうでもよくはないのだが、それよりもこれはコーエンがひたすら面白さを目指して作った(『ブラッドシンプル』以来の)映画であるということを記しておくことのほうが(少なくとも私にとっては)重要である、と云ってみたい。
コーエンの巧さについてはじゅうぶん承知していたつもりだったが、それにしてもこれほど立派にアクション演出をこなすとは思わなかった。バルデムのキャラクタももちろんよいが、その死神バルデムに傷を負わせるほどの力を持った人物として造型されているブローリン、およびそれを具体化させるアクション演出が真にすばらしい。また、ブローリンがモーテルで金を隠すシーンやバルデムが脚を治療するシーンなど、必要以上に仔細に映し出される「経過」がやたら面白く、一方で物語が進むに従って顕著になっていく「経過」の省略(「結果」しか見せない。あるいはそれどころか「『結果』の後」しか見せない)もまた快い。バルデムの後方で自動車が爆発するワンフレームのショットも最高。そうそう、屠殺銃のアイデアもやはりいい。「チャーリーの話」がそれにリンクするあたりはあまりにコーエンらしい巧さでちょっと鼻白んでしまうけれども。
ただし、どうせ「シャツ」の反復をするぐらいだったら、ブローリンのことはもっと露骨にバルデムとのシンメトリとして描いてもよかったのではないかと思う。テーマなんかどうでもよいと云っておきながらなんだけれども、バルデムのみの突出は“No Country for Old Men”というテーマの提示を阻害しかねないだろう(「これじゃあOld Manジョーンズだけではなく、ブローリンだってNo Countryのようなものじゃないか」という意味で)。あるいは、評判のよろしくない『ノーカントリー』という省略邦題は「Old Menだけでなく、人間はみなNo Countryなんだよ」の意だと好意的に解釈できなくもない(が、やはり無理があるでしょうね)。
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