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[コメント] たぶん悪魔が(1977/仏)

より深く、より漠然とした絶望に取り憑かれた現代のラスコーリニコフには、ソーニャたりえたかもしれない女性すら拒絶し、緩やかに、だがひたすらと自殺へ向かってゆく道しか残されていない。ブレッソン・スタイルの到達点として『ラルジャン』と並んで「映画」を動揺させる傑作。なんという厳しさ! なんという絶対性!
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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いや、いっさいの救済を拒絶する映画の身振りの徹底性についてならば『ラルジャン』の上を行くかもしれない。拳銃の発砲音響の恐ろしさ。バス内ディスカッションに生じる絶対零度のグル―ヴ。ただのアーカイヴ映像に過ぎないはずのアザラシ撲殺や水俣病患者のカットの強烈なインパクト。所作演出の厳しさも全篇を通じて最高度に達しているが、わけてもラストシーンのそれには言葉を失う。ヴァランタンはシャルルを撃ち殺し(依頼通りの行いではあるものの、そのときシャルルはまだ喋りつづけていた!)、地面に倒れて動かない彼から金を奪い取っていく。その所作の当然のごとき簡潔さが獲得した絶望的な凄み!

特にこの映画において顕著に思えたのでここに記しておくことにするが、ブレッソン映画に出演する「モデル」と称されるところの素人俳優たちは、しかし一般人離れした美形揃いだ。ブレッソンが出演者にまず求めたものは演技についての何事かではなく、被写体としての視覚性とでも呼ぶべきものだったのだろう。

(評価:★5)

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