[コメント] ロシュフォールの恋人たち(1967/仏)
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すべての衣裳や造形物の色彩、画面の端に小さく写り込んだエキストラの表情や所作に至るまで、全篇をドゥミの美意識が支配している。そこで連想されるのはやはりタチで、さすがに『プレイタイム』ほどの峻厳さこそないものの、ここまで偏執的に撮られた映画が開放感と温かみを獲得しえているのは驚異的なことだ。祝祭的空気のラスト・シークェンスで演じられるカトリーヌ・ドヌーヴと画家兵士ジャック・ペランのすれ違い、およびそこから真のハッピー・エンディングに持っていくサスペンスフルな演出の安定感など、画のみならず劇の手綱さばきも第一級だ。大好きなシーンは数え切れないほどあるけれども、ここでは、ドヌーヴがステップを踏みながら画廊に行くまでの序盤の横移動ワンカット・シーンを挙げておく。キャラクタのエモーションという点では何の起伏もないはずのこのシーン、しかし画面から溢れ出る幸福感ときたらただごとではない。
また、「アメリカの」ミュージカルを大真面目かつひたすら楽しくやってみせたこの映画にジーン・ケリーを出演させられたことは、ドゥミにとって、『ウエスタン』にヘンリー・フォンダを招聘できたセルジオ・レオーネにも似た感慨があっただろう。ドヌーヴはフランソワーズ・ドルレアックとともに少々メイキャップがきついかしらと思うが、その所作のコケットリーは『シェルブールの雨傘』に倍する。ジョージ・チャキリスの相方グローバー・デイルとペランは笑顔が素敵ですぐに好きになってしまう。ウェイトレスのジュヌヴィエーヴ・テニエも可愛い。ディナー中にいつのまにか寝てしまっているドヌーヴの弟だとか、ドゥミの演出は役の大小にかかわらずキャラクタを魅力的に見せることに妥協がない。
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