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[コメント] 007 カジノ・ロワイヤル(2006/米=英=チェコ)

あれ? なんだか本物のジェームズ・ボンドがいるぞ?
TILL (てぃる)

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 まだ僕が幼かった頃、お気に入りのオモチャの1つに潜水艦へ変形するロータス・エスプリのミニカーがあった。いまでも鮮明に各部のギミックを覚えているくらいだから、かなりお気に入りのオモチャだったのだろう。当時の僕にとってジェームズ・ボンドが何者かはTVの洋画劇場でチラチラ見る程度だからハッキリ知らないけれど、変形しちゃうカッコイイ車に乗ってて、たくさんの秘密兵器を持ってて、世界各地を飛び回ってて、綺麗な女の人にモテて、時には宇宙まで行って悪党を倒しちゃう正義のヒーロー程度の認識だった。それはそれで子供心を揺さぶるには十分過ぎるほど、魅力的なキャラクターだったのは間違いない。

 時は流れて・・ 自分の足で劇場に行くようになり、『007/オクトパシー』や『007/美しき獲物たち』等をリアルタイムでスクリーンで鑑賞した時、なんだか自分が思っていたボンド像からズレてるなぁ・・という印象だけが残った。コミカルというか、妙に親しみやすいというか、ピンチになると秘密兵器で切り抜け、それだったら本人の諜報部員としての才能よりも秘密兵器をたくさん持ち歩いていれば諜報部員という仕事は勤まるのではないか? そもそも、こんな軽めのノリで世界を救っちゃって良いのだろうか?と思ったりしたが、結果的にはキチンと救ってるんで、結果を残している人には文句を言うのは失礼だから控える事にする。

 さらに時は流れて・・ 『007/リビング・デイライツ』と『007/消されたライセンス』を見たとき「おぉ! ボンドだ!」と素直に思った。 洗練された仕草や立ち居振る舞いに男の色香を漂わせながらも、時には冷血とも思える眼をして感情を剥き出しにするボンド。自分の中で長年思い込んできた"ボンド像"そのまんまの人が出てきて嬉しかった。その後、お茶目な面も見せるボンドが再び現れて、それはそれで楽しんだものの、また自分の"ボンド像"からは離れてしまった。

 ・・で、時系列的に古いバージョンの新しいボンドが登場した。 オープニングからモノトーンで見せる肉弾戦と、躊躇いをまったく見せない銃殺シーンの静と動のコントラスト、そして新しいガンバレル・シークエンスに続いて、クリス・コーネルの"You No My Name"が流れ始めた時、この人が新しいボンドと理解しつつも「Who are you?」と問うしかなかった。これは期待以上のボンドの登場か? と期待していたら、その期待を裏切る事無く次のアクションシーンで走るわ、飛ぶわの大追跡。やるなぁ、ヤング・ボンドよ。あなたのそんな汗の匂いを感じさせる姿を見るのは何年ぶりだろう? いやいや、もしかしたら初めてかも。っていうより、単純にカッコ良いとしか表現出来なくて困るじゃないか。ここまで見ただけで初めて自分の"ボンド像"を超えるボンドの登場に一発でヤラレてしまった。

 従来のボンドよりも時系列的には"以前"な為、まさに"若かりし頃のボンド"が垣間見れる訳ですが、ただ単に銃を撃ちまくって殺すのではなく、明確に相手を仕留める意志を持って動くボンドの野獣のような美しさ。そんな血気盛んな面とは別に、ポーカーの大勝負で見せる冷静さと大胆さ。人妻フェチを思わせる一言。予定外の服を押しつけられて少々スネながらも袖を通し「まぁ・・これも悪くないな」と鏡の前で自分に言い聞かせてたら軽く笑われてやっぱりスネちゃう子供っぽさ。でも、ボンドという人はこうやって女性に磨かれて洗練されていったのかなぁ、と思ってみたり。とにかく今まで見ることが出来なかったボンドの姿の数々に、なんだか"等身大の本物のボンド"を見ているような気分。

 なによりも嬉しかったのは"大事な巾着袋"をペチペチされても大声で笑い出すあなたの姿が見られた時だ。いつだったかサソリに刺されてヒーヒー言ってるあなたの姿を見た時、僕の頭の中は幻滅という言葉で埋め尽くされた。確かに口を割らなかった事は賞賛に値するが、世界屈指というか最も有名な諜報部員が拷問されたくらいで冗談の1つも飛ばせないなんて・・ 今まで何度殺されかけようと、相手を始末した後の余裕の一言や表情こそがボンドがボンドたる所以だと思っていたのに・・ ん? なんだか時系列がゴッチャな話になったけど、まぁいいや。

 僕は長年の間、誰に何を言われようが"ティモシー・ダルトンのボンド"を支持してきたのですが、とうとう"乗り換え"の時が来てしまったようです。次作の出来次第では、たとえあなたの髪が緑や青色であっても"ダニエル・クレイグのボンド"を支持するつもりです。

 うん。 これから何年間、あなたがMI6に勤続する(出演が続く)かは知らないけれど、たとえ有事があってもTVの画面を見ながら怯えるしかない一般市民の僕は、あなたに世界を救い続けてもらえれば安泰だと思えたし、そうなる事を切に願います。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)パグのしっぽ[*] ぽんしゅう[*] sawa:38[*] ジェリー[*]

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