コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] さや侍(2011/日)

松本人志と映画との相性。
脚がグンバツの男

松本監督は『大日本人』『しんぼる』と一貫して笑いにこだわってきた。コメディではなくことテレビの笑いという事に関して言えば、スクリーンとは相性が悪い。本作におけるテンポの良い笑いは、従来の映画でみられるようなフリを生かした笑いやハプニング、下ネタ、スラップスティックなどとは異なり非常にテレビ的である。なかでもお白州と牢屋敷の場面転換がコロコロと繰り返される前半部はテンポといい間といい如何にもテレビのコントの様だし、そもそも劇中であんなにセットを使いまわしては情緒も何もあったものではない。何秒間に一度笑いが起こらなければチャンネルを変えられてしまうテレビとは違うのだから、こうした演出は逆に映画の良さを損なってしまい残念に感じた。

たとえばこれが「働くおっさんザ・ムービー」というタイトルでの上映であれば観る人を選ぶので、「笑えた」か「笑えなかった」以上の感想にはならない。しかし映画作品「さや侍」として映画館で公開している以上、(映画として)良かった悪かったという話になるのは免れないし、テレビを映画館で上映したところでそれはテレビに過ぎず必ずしも映画作品として良い評価は受けない。そもそも松本人志以外の監督作品であれば本作のようなコントを下地にした映画の企画自体通らないはずで、ここに松本人志という名前だけで集客力のあるビッグネームと、まだ誰もやったことのないことをやらなければならないという本人のプライドと意地、というジレンマがあるように思う。

製作、脚本、ブレーン、全員がテレビを作っているスタッフで映画に関しては素人も同然と言え、監督に至っては映画を好きではないと公言している。それでは映画は撮れない。とはいえ本作では親子の絆という王道とも言えるテーマを持ってきたり、終盤の展開では「感動」を強く意識していたりと前二作と比べると映画的な要素が強くなっているのも事実で、三作目という節目にして一度映画と向き合う変化のときが来ていると感じた。単純に笑えたし、終盤はじーんとくる場面もあった。良くも悪くも映画監督として未熟であり完成されていないために、次回作にも期待が膨らんでしまう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。