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[コメント] サブウェイ・パニック(1974/米)

トニー・スコットのリメイク版を予習する意味で久々に再見。ガキの頃ロードショーで見たが、目の肥えた現在ではよりいっそう楽しむことができた。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画は小説ほどには人称を感じさせない。それはそもそも語り手が客観的な「キャメラ」であることによるのだが、この客観性を意識的に演出に導入しているのがこの映画の面白いところだ。昨今のドキュメンタリータッチとは趣向が違う。

地下鉄の運行表示板から着想されたであろう、遠隔監視的な事件の記述形式がベースにあり、それを動かしている当事者を見つめたときにふと現れる人間臭さのユーモアがある。犯人グループがそれぞれをブルー、グリーン、グレーなどと呼称する記号性(『レザボア・ドッグス』がオマージュしているね)、その彼らが三々五々地下鉄に乗り込むくだりの計画性、その段取りが時計の秒針のように正確に進行していくのが、原題"The Taking of Pelham 123"(「ペラム123号車奪取」)そのままの感じで気持ちいい。

観客の気持ちを代弁するウォルター・マッソーの、体温を感じるキャラクターも素晴らしい。しかしそれにしても、アメリカ映画というのはどうしてこうも電信電話による彼我の会話のシーンをこれほど充実したものとして描けるのだろうか。

身代金を運ぶパトカーが引き起こす交通事故の唐突さ、その描写の淡白さも斬新だし、線路の高圧線に足を突っ込む自死の壮絶さも忘れがたい。終盤、暴走した地下鉄とカットバックされる青信号、青信号の反復も実に無味乾燥なのだが、最もインパクトがあったのは、急停車した車内で座席を滑っていく「ずっと居眠りしていた乗客」だった。移動速度と経過時間を一瞬にして描写し、かつ「俺はずっと寝てたんで事件のことは全然知らねぇな」というユーモアも含んでいる。

この「慣性の法則」の巧さに呼応するかのような「オチの法則」には脱帽するしかない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)ゑぎ[*] 緑雨[*] ぽんしゅう[*] ナム太郎[*] Orpheus uyo[*] けにろん[*]

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