[コメント] 理想の彼氏(2009/米)
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制作・脚本・監督のバート・フレインドリッチは1970年生まれで、奥さんのジュリアン・ムーア(!)は10歳年上の姉さん女房だ。そんな実感が多少なりともあるのかもしれない。だが脚本はそんな自伝要素も雲散霧消してしまうほどによくこなれている。
子どもたちが早々と適応してスラングを使いこなすさまも楽しいが、ゼタ=ジョーンズのデート相手が、街頭の簡易トイレごしに口説くシチュエーションというのは凄い。これは机上では思いつかないエピソードで、実際に街を歩いて拾い集めたシーンとしてのリアリティがある。スポーツの統計・データ分析に長けているゼタ=ジョーンズのように、ニューヨークという街に暮らし生きる人々のエピソードを収集し再構成したフレインドリッチ監督の手腕がここにある。
このリアリティの質が私にはとても新鮮だった。ミクロ(個人)からマクロ(普遍性)を描き出すのではなく、その中間の規模で集約された断片的な話題の地域性が、その都市に生きる人々を立体的に映し出す。例えるなら、全国紙や全米ネットワークのようなマスメディアではなく、ケーブルテレビや地方ラジオ局のようなミドルメディアが扱うスケールであり、またこの語りの即興性は、「マーリー」のようなクロノロジカルな時間感覚とも異なるものだ。
ゼタ=ジョーンズとバーサがデートするボクシング会場も小劇場演劇も、そうした中小規模のライブ感覚を体感させる雰囲気を持っている。そんななかで、バーサがバイトしている喫茶MOJOの店内だけは、なぜかイギリス映画のようなもっさりした時間が漂っているのも可笑しい。それでも本作がエピソードの羅列に見えないのは、全体像を把握した作者が、語りを脱線させない巧みな制動を効かせているからだろう。
このスピーディーなライブ感が魅力なだけに、二人が恋仲になり、ゆっくりいこう宣言でギアダウンする終盤は、工夫を凝らして締め括る手際が求められる。妊娠を告げられたバーサのリアクションを見たときには、この映画はハッピーエンドしかありえないと思っていたのだが、二人の関係性の脆弱さをバネにして好きなように描いて見せた5年間のフラッシュはこれはこれでいい。
原題が"The Rebound"なのだから二人は再会するはずで、人生の資産として築いた人間関係を保有したままでそれが叶ったエンディングにも納得だ。主演の二人、特にゼタ=ジョーンズは演技の技術力の高さが見られ、このジャンルのヒロインとしての今後に期待が持てる。
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