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[コメント] コレクションする女(1967/仏)

映画は概念を表現することができる、とはエイゼンシュタインの言葉だが、ロメールの映画を見ていると、官能性や観念性とは切り離されたエロスという概念が感じ取れるようだ。それは生命の息吹といってもいいかもしれない。
shiono

あえてWikipediaなどを参照せず、自分なりにエロス、エロティックなるものについて考えてみると、それは五感による外的刺激と、受け手の内面意識とが混ざり合うときに生み出される、思考と感情が綯い交ぜになった高揚のことではないかと思う。エロスは「美」とは異なりそれ単体では存在せず、何かに対するリアクションとして生成される。それをエロティックと思うかどうかは主観の問題というわけだ。

ロメールは登場人物を避暑地という器の中に放り込み、まるでサラダドレッシングのボトルを振って攪拌させるように、対比的な男女がお互いに働きかける様を見せてくれる。視点の主軸は中年男性にあり、人生経験で培われた彼なりの価値観を我々に語ってくれるが、俗世間に塗れない理想主義的な純粋さもまた併せ持っていて、それがルノワールの映画の放浪者のように、共感と憧れをもって私たちの感情移入を促していく。

一方の主役である若い女性は、その奔放な行動とは裏腹に、見る者を映し出す鏡のような透明な輝きを放っている。背景を持たないキャラクターという意味において、映画的に純度が高い被写体ということだ。演技経験が少ない女優に、彼女が考えたダイアログを言わせるというロメール演出も理にかなっている。

トリュフォーのような、個人史に根ざしたコンプレックスを映画に昇華していく作家も好きだが、ロメールの大らかさ、聡明なユーモアセンスというのもまた愛すべき映画の美しさだと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

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