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[コメント] メアリと魔女の花(2017/日)

ジブリの技術を使って「ちゃんとした話」を描いてもらいたかったが、まだ難しかったようでそれは残念。しかし、その萌芽は見えたと思うので次作期待。
Master

**ネタバレ注意**
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予告編を観た際には、「ジブリ過去作名場面集」になるのではないかという危惧をかなり強く持ったのだが、そういった短絡的な作品にはなっておらず、それは良かったと思う。また、そもそも話自体が支離滅裂になることもあった『ポニョ』以降の後期ジブリの作品群と比較した場合に、まだまとまった作品となっていたのも今後に期待が持てる。

しかしながら、あくまでも「まだ」であり、『アリエッティ』や『マーニー』での「成功体験」が根本的な改善を邪魔している印象もある。相も変わらず脚本が甘い。設定の練り込みが甘い。気になった点を列挙することでそれを示したい。

「呪文の神髄」から魔法を「詠唱」するシーンが出てくるが、メアリはその方法をどこで学んだのか少なくとも劇中には言及がない。「魔女の花」を潰した時に出てくる液体を文字に塗り込むことで魔法が発動する表現はあるが、本のページに手をかざすことで発動するのは誰も行っていない。

エンドア大学のマダムやドクターが動物やピーターを拉致する表現があるが、それならば「魔女の花」を探索しない(できない)のはなぜなのか示さなければ、メアリが魔女の花を持ち込むことを「待ち焦がれる」事に対する説得力が弱くなる。

ピーターの拉致に関して、なぜマダムはあの男の子をピーターと判別できたのかが明確ではない。住所を示す紙をメアリから受け取るが、ピーターはその時メアリの捜索のために家を空けているし、紙を書いたのはシャーロットであるし、ピーターとマダムを結びつく状況にはなっていないはず。魔法で知ったと言うのならそもそも紙を受け取る表現をなぜ足すのか説明が必要である。

最後に、「すべての魔法の効果を消す」魔法が出てくるが、この効果について羊頭狗肉と言わざるを得ず、ご都合主義に過ぎてしまっている。「すべての」魔法の効果がなくなると言っているにもかかわらず、劇中2回使っている事に何の疑問も持っていないのだとしたら、観客に失礼である。

1回目は効果が金庫室の中だけにとどまっているし、2回目を使った後もフラナガンの箒は相変わらず空を飛んでいる。メアリが帰るために使う箒も生きている。「原作がこうなんだもん」ではない。それなら話を変えれば良いのであって、矛盾を残すのは単なる制作陣の怠慢でしかない。

個人的にはジブリの技術を生かしてしっかりした話を作ってもらいたい。そのためには、スクリプトドクターを入れるとか、合議制で徹底的に脚本をブラッシュアップしてから作画を始める「ピクサー方式」の導入を強く推奨したい。本作を観る限りジブリの強固な「檻」の中に相変わらず囚われている米林監督がジブリの呪いから早く解放されることをただただ願ってやまない。

それが出来たときに、新たな地平が姿を現すことと思う。

(2017.7.9 シネプラザサントムーン)

(評価:★3)

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