２Ｄ吹替版にて鑑賞。

冒頭の親子の会話で父親が話すセリフ「なぜ幸せになっているかわかるか？いろんなものを諦めたからだ」でまず度肝を抜かれた。子供を心配する気持ちと自分の理解が及ばない事に対する恐れを表した絶妙なセリフではあるのだが、当初は意図を汲めなかった。

全編を通すと「先入観を壊す」という意図であることがわかる。「夢を諦めることを要請するのは敵役」という先入観だったり、「キツネはずるがしこい」という先入観だったり、「羊は善玉である」という先入観だったり、そういった勝手なイメージを潰すのが本作の基本線である。

では、この「先入観を壊す」のはどういった意図かと考えれば、「差別」へのアンチテーゼへとつながる。ある集団に属している（と判断される）ものの一部の行動によって、その集団全体の思考が同じと考えその集団を排斥しようとする考え方は別段珍しくない。本作で描かれる肉食動物への恐怖に基づくストーリー展開はそのまま現代の宗教問題に当てはめることが可能である。

このように本作は非常にセンシティブな題材を扱っているにもかかわらず、そのセンシティブさを前面に押し出すようなことをしない。そのバランス感覚が卓越しているのである。

また一つ安心して薦められる良作が出来た。それでよろしいのではないかと思う。

(2016.05.08 シネプラザサントムーン)