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[コメント] アイアムアヒーロー(2015/日)

惜しい。ここまでやれるなら、監督の人選さえミスらなければもっと「先」を見せる事が出来たように思う。
Master

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作未読です。

邦画の大作風ゾンビ映画という事で考えれば、よくぞここまでの作品を仕上げてきたと賛辞を送りたい。英雄(大泉洋)が序盤に遭遇するZQN化したてっこ(片瀬那奈)の動き、ZQNの造形、韓国で撮ったタクシーのクラッシュシーン、散弾銃を被弾した場合の銃創、ショッピングモール地下での戦闘シーンのラストのオチのつけ方など、良いと思える部分が多く、部分的な満足度は高い。

しかしながら看過できない問題点がいくつかあるため、全面的に称賛というわけにもいかない。

まず序盤の問題は制作側がおそらく原作をトレースしたつもりでいる「世界が崩壊するまで」の描写、つまりはてっこの『エクソシスト』におけるスパイダーウォーク的なシーンに行くまでが恐ろしく鈍重であること。

佐藤監督の過去作『GANTZ』でも指摘した「説明ベタ」がまた顔を出しており、そこに至るまでに結構なストレスがかかる。持ち込みのシーン(スピリッツの表紙がベタベタ貼られているのもプロダクトプレイスメントが露骨で不快。『バクマン』のジャンプと違って必然性がない)や、中田コロリ(片桐仁)のマンガを読んで「面白ぇなぁ」とこぼすシーンなど、後々絡んでくるわけでもなければ、カットしたところで理解に支障がないシーンをだらだら入れ込んで、「原作の再現です」と得意がられたところで鈍重なものを観させられては不快感しか感じない。

どうも佐藤監督はそれを観客に対する「サービス」と考えている節があるため余計に性質が悪い。

終盤では2つ挙げたい。1つは「現実」と「妄想」を行き来する箇所において、ストーリーに急ブレーキがかかってしまうこと。具体的には英雄がロッカーの中に入って、ロッカーを飛び出した後を妄想するシーン。佐藤監督のインタビュー( http://entertainmentstation.jp/29709/2/ )記事で「力を入れた」と仰っており海外の反応も良かったとのことではあるが、そこまで緊張感を上手く形成しているだけに、だまし討ちを食らった気分になってこれもまた不快であった。

また、このシーンは上記で言及したスパイダーウォーク的シーンと矛盾してしまっている。てっこだったZQNはドアの外にいる英雄をちゃんと認識して襲いかかっているが、ほぼ同じシチュエーションであるにもかかわらずここでは2体のZQNは英雄に気付かず、いなくなってしまう。「力を入れた」のであれば、リアリティラインを保つ努力も惜しまないでいただきたい。

そしてクライマックスの挟撃対応のシーンだが、英雄の動きが単調なためしばらくすると飽きる。このシーンではサンゴ(岡田義徳)とアベサン(徳井優)を「処理」しなければならないため、ある程度の長さが必要なのはしょうがないのだが、英雄は発砲→180度回転→発砲→180度回転を繰り返すばかりで工夫がない。

途中、巨漢のZQNの死骸に押しつぶされるというような展開があるにはあるが、基本路線は全く変わらないので、最終的にはテンションが下がってしまう。

ここまでやれたのならもっと先に行けただろうという思いは非常に強い。入口を徹底的に間違えているにもかかわらずここまでできたのであれば、佐藤監督ではなく、中島哲也監督や三池崇史監督や園子温監督がこの題材をどう料理するのか見てみたかった。

(2016.4.23 チネチッタ)

(評価:★3)

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