……本当にわからないよ。神木くんほか映画部も、ボンヤリイケメンの最後のほうのあの感じも、どういう感情なのか全然わからない。こわい。いちおうそれなりに自分の高校時代なんかを思い出しながらスクリーンを眺めていたわけだけれど、校舎裏のキスの感じとか、何も感じない。あれをもし高校時代の私が見ていたら、あの景色をそのまま網膜に持って帰ってオナニーするし、あのキスを見ている吹奏楽部の女の子の表情もそのまま網膜に持って帰ってオナニーできるし、リサちゃんとか、もう名前だけでもオナニーできるねとか、バドミントン部の2人にラケットで交互に叩かれてるオレとか想像したらかなりオナニーできるとか、そういうことしか考えられない。全然話が入ってこない。超こわい。

　だってみんな、私から見たら、平等にキラキラと輝いて見えるんだ。バレー部も映画部も帰宅部も吹奏楽部も、みんな同じくらい眩いんだ。みんな同じように、美しいに決まっているのだ。そして私は高校時代、この映画に出てくるようなヤツらを片っ端から軽蔑していたのだ。全員死ねと思っていたのだ。映画部の部室の隅っこに丸まって暗い目をしたヤツ、お前もだ。

　もうね、思い出すのもおぞましいけれど、ほとんど3人くらいとしか口をきかず教室にもあんまり行かず、学校中の全員を天の上から見下して「死ね、滅びろ」と思っていたスクールカースト最上位（？）の私にとって、こういう高校生は、ひとり残らず憎しみの対象だったです。3年間、何一つ、彼らと共有できなかった。そしてほぼエスカレーター式の付属高なのに「あんな下等動物たちと同じ進路はとらない」「オレは大学には行かない、インド、インドへ行くインド、インド」などと親に向かって高らかに宣言し、結果インドにも別に行かないでお笑いの養成所とかに行く感じの人は、そういえば『桐島、部活やめるってよ』には一人も出てこなかったですね。そりゃ出てこないですね。すみません。

　ただ不思議なのは、そういう人は他の青春映画にも全然出てこないんです。でも私は青春映画よく見るんです。「どんな映画好きですか？」って聞かれたら「一概にはいえないですけど、青春映画とか好きですよ」って答えるくらいよく見る。

　でも『桐島、部活やめるってよ』は全然好きじゃない。これはまるで他人事だ。私はこの作品を見ながら、あのころとまったく同じ疎外感・敗北感・屈辱感を味わう羽目になった。高校をちゃんと過ごしたヤツらに対しては、これはもう一生逆転できねえよなあと思ったりするんです。

　こんな青春映画体験は初めてであって、やっぱりこれは画期的な作品なのかもしれないと思うんです。『桐島、部活やめるってよ』は、そこらの青春映画とは別次元の、青春という時期のとても現実的な何かを、今までにない視点で描いている作品なのかもしれないと思うんです。それがどういうアレなのかは全然わかんないですけど。