コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] デス・プルーフ in グラインドハウス(2007/米)

退屈さえも後の快感の要素になる。私はタランティーノの手のひらの上。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 前半の凄惨なクライマックスを経て、映画は再び「女の無駄話」モードに入る。車の中の会話はまだ我慢できたが、カフェに移ってからのそれはもう退屈極まりないもので、まったく英語を理解しない私でも字幕を読むのをやめてしまったほど。こいつらの話はつまらん。つまらん話を延々聞かされ、私は「こいつらもう死んじゃえばいいのに」的な軽い殺意を抱く。そして、期待するのだ、スタントマン・マイクに。思う存分やれ、マイク!

 そんな私の心うちを知ってか知らずか、女どもはさらに調子に乗ってボンネットに乗っかって大騒ぎ。ハシャぎすぎだおまえら。そんなに調子に乗ってると、来るぞ、来るぞ、マイクが来るぞ……。

 キターーーーー!!!

 もう100%、完全に私はマイクに殺戮を望んでいる。どんだけ悪趣味でグロい人殺しを見せてくれるのかと、もうドキドキである。

 だが、カーチェイスが続くうち、ちょっとやりすぎじゃね?と思えてくる。ボンネットの姉ちゃんが可哀想に見えてくるのだ。そりゃそうだ。私はこの時点で、この映画はサイコキラーが調子こいた姉ちゃんたちを惨殺してゆく話だと思い込んでいるので、いつまでも「生かされている」彼女に違和感を覚え始めるのだ。映画の展開で言えば「殺されて当然」なキャラクターである彼女たちだが、こんなに長く恐怖の拷問を受けるほど悪いことをしてるわけじゃないような……。

 で、あの展開。THE END。ああ私は、まったくもって完璧に、タランティーノの策略にハマッたのだ、と思った。ファッキン・サイコ野郎が半泣きでわめく「I'm sorry」に爆笑し、健康優良女子の回転の効いたソバットに拍手を贈るしかなかった。

デス・プルーフ in グラインドハウス』は、大袈裟ではなく、プロットにすればたった1行ですべてを説明できてしまうストーリーだ。だが、タランティーノはその行間(1行なので行間も何もないのだが)を“映画”で埋め尽くし、こんなに面白い作品をつくってしまった。つくづく彼は映画作家なのだと思うし、自分の選択した方法論をとことん信じきり、とことん愛しきるその創作姿勢には尊敬を通り越して戦慄さえ覚える。この人はやっぱり、映画の寵児だ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (7 人)IN4MATION[*] G31[*] 浅草12階の幽霊 ハム[*] 狸の尻尾[*] Keita[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。