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[コメント] パプリカ(2006/日)

ほとんど個人的な趣味の問題というか言いがかりになってしまうが、今敏にはアニメーションよりドラマを求めたい。
林田乃丞

 私は今敏作品の『東京ゴッドファーザーズ』に★5をつけている。そして、あの作品に対する「こんなのアニメでやらなくてもイイじゃん」的な意見を聞けば、「アニメがこれをやって何が悪いんだ」と思う。絵の上手い作家が「自分の歌を歌うために絵を描く」という行為は実に自然な創作だと考えるし、アニメ作家が「アニメでしか出来ない表現」に固執し始めれば、アニメという文化は自ずとその世界を狭めてしまうのではないかと危惧する。

パプリカ』はきっと、今敏が「アニメでしか出来ない表現」を追求した作品だろう。だが、ひどく乱暴な言い方をしてしまえば今敏という作家には、こうした表現はあまり向いてないんじゃないかと思う。理路整然としすぎているというか、タガが外れきっていないというか、早い話が『パプリカ』をやるなら作家自身がもっと突き抜けて、トチ狂ってなきゃ面白くないんだ。

 人形たちのパレードも、錯乱した人間たちの意味不明なセリフも、いちいちリズムが良くて安心して眺めてしまう。「ワケわかんねえけどスゲエ!」という驚きがない。まったく危うくないし、不安がない。その傾向が世界観だけじゃなく、パプリカが飛んだり跳ねたり壁を走ったりというシーンにも顕著に現出してしまっていて、アニメがもっとも得意とする表現だったはずの「人間の驚くべき運動」がどうにも描ききれていない。

パプリカ』にとって夢風景の映像化という作業はあくまで下地であるべきで、この作品の魅力が爆発する臨界点はそこじゃないと思う。その夢の中で重力の支配から解放された人間たちがどんな立ち回りを見せてくれるのかという「人間の驚くべき運動」の描写こそが、『パプリカ』が「アニメ」として目指すべき場所だったんじゃないだろうか。

 せっかくアニメなんだし、せっかく夢の中という美味しい設定の物語なんだ。パプリカってキャラクターだって存分に魅力的だ。私が見たかった『パプリカ』は、たぶん物語の展開と関係ないシーンで彼女がもっと空中でクルクル回ったりビルを飛び越えたり水中を高速で回遊したりという、アニメでしかできない「運動」の描写に溢れた作品だったのだと思う。だけど今敏は、どうやらそういう部分で過剰に遊ぶ作家ではなさそうだ。ならばじっくりと地に足をつけた世界で、自分の歌を歌ってほしい。

(評価:★3)

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