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[コメント] 美女缶(2003/日)

奇抜な発想にふわりと乗せられた“人の想い”。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 自ら仕掛けたギミックの妙に囚われることなく、あくまで人間の想いを描こうとした姿勢が何より素晴らしかったと思う。この物語は、展開の中で何を語るべきかという軸がしっかりしている。その姿勢が構成にもよく現れていて、徹底的に削ぎ落とされた「美女缶」の説明と、出会った夜のふたりの会話から冷蔵庫で冷を取るまでの一見だらだらとしたシークエンスの対比には目を見張った。この映画は人間と人造人間との想いの関係性を描いた物語だという、これは宣言なのだ。

死神の精度』の予習のつもりで見たが、想像以上だった。原作モノの商業作品の中で「人の想いを描ける作家」筧昌也がどういった仕事をするのか、期待して観に行きたいと思う。

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 注:ここから激しくネタバレをしています。

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 特に気に入ったのは、SF作品として「完全に自我を獲得し得た人造人間」の喜びと悲しみがさりげなく、かつ有効に盛り込まれていたこと。相手を理解しようとすることでビデオを発見してしまったアンドロイド・ユキの悲哀はもちろん、自分が購入した“商品”に「合鍵を返せ」と言われ、その申し出を受け入れてしまった“彼女”の複雑な心境も興味深かった。この後、彼女はまた「美男缶(?)」を買うだろうか。次はもっと束縛しようとするだろうか。また同じように、商品の取扱説明書に従って“彼”の自我を尊重するだろうか。それは出会いだろうか、単なる消費だろうか。対価を支払う彼女の権利とは何だろうか。そんなアンドロイドとの恋愛を扱ったSFの本質的なテーマが物語の余韻となって心に残った。加えて言えば彼女が咳き込むあたりの「もう時間がない」ことについてのミスリードも見事に機能している。面白い設定を用意しつつ、まったく「設定負け」していないSF作品であるということに敬意を表して、★5にします。

(評価:★5)

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