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[コメント] 犬神家の一族(1976/日)

構成・人物の配置・編集・照明による画の見せ方といい、市川崑は真の映像作家である。一種、演劇的とも呼べる手法も多分に取り入れ、成功させた画期的な例。原作をも凌ぐ出来に、横溝ファンの垣根を広げた功績も認めねばならないだろう。レビューは犯人に言及。
牛乳瓶

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高峰三枝子の演技に関して。 石坂浩二演じる金田一が松子の元へやって来て、謎解きを始める。「犯人はあなたですね」と、金田一が口にした瞬間の松子の表情。市川監督はさすが、その瞬間の高峰三枝子の表情を余すことなく正面から撮っている。今まで松子が一人で背負い込んでいた恐ろしくも哀しい運命から開放された安堵感。風采の上がらぬ金田一という人物に全てを読み取られてしまった怒りに似た感情。どちらかというと、前者の感情が色濃く出ているかと考える。なんだか、松子の口元が緩むせいか、犯人と言われてホッとしているように見える。(リメイク版の富司純子はここで「何を言うんですか、この人は」と言わんばかりに、口をキュッとしめる)この表情が何とも言えず、大好きだ。今まで、冷酷で「怒り」以外の感情の無いように思われた松子の口元が緩むのである。犯人といわれてからの、松子の台詞回しは、今までの松子とは違い少々気の抜けているところが見受けられる。犯人と言われた時点で、恐らく死を決意していたのだろう。思えば、佐清が顔に包帯を巻きつけて復員してきたその日から、松子は犬神家の呪いに縛られていったのであろう。それを体現した高峰三枝子の素晴らしさに息を呑んだ。

このように横溝作品には、単なる殺人だけではなく、家の呪縛や怨念などおどろおどろしい背景が描かれるが、真の映像作家と呼ぶべき市川崑監督がその世界を見事に表現している。原作よりもすっきりと纏め上げた優れた脚本や、観客が人物に感情移入するべく用意されている「間」、人物関係が巧みに表現されている人物の立ち位置、全てが明るくなく、人物の心情などを的確に表現している照明、台詞がかぶりまくる遺言状を読み上げるシーンの編集など、市川監督ならではの演出が光っている。

その市川ワールドに華を添えたのが、何と言っても、世間の金田一耕助のイメージを固めることとなった石坂浩二である。どこか飄々として、頼りがいのなさそうに感じるも、愛嬌のあり、誰からも愛されるキャラクターを造形した石坂浩二に脱帽した。常に一定した安定感を持っており、なんだか安心出来る。

石坂・高峰のほかにも、小沢栄太郎島田陽子坂口良子草笛光子岸田今日子などなど素晴らしい役者陣に支えられ、大ヒットを記録。横溝正史の書籍の売り上げも絶好調。この横溝ブームに乗って市川崑による金田一シリーズは石坂浩二主演物で5作(リメイク含まず)製作される事となる。

(評価:★5)

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