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[コメント] 去年マリエンバートで(1961/仏=伊)

石像のモデルがシャルル何世とその妻であるとか、その当時作られたものでないとか、そんな真実には何の意味もないのだ。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画は★6です。大傑作。

劇中、男女の像について二人の間で様々な見解が提示される回想シーンがある。しかし、石像のモデルがシャルル何世とその妻であるとか、その当時作られたものでないとか、そんな真実には何の意味もない。ただ、このエピソードが二人の愛の証拠である点にこそ意味があるのだ。そして、劇が進むにつれて、愛を前に全てが意味を失っていく。名前も、記憶も、遂には存在すら意味を失っていく。全てが意味を失った混沌の中で永遠に続くであろう男の愛。愛をあらゆる拘束から解き放とうという強い意欲を感じさせる。

又、緩慢なスピードでフワフワと漂いながら動くカメラと、モノローグや繰り返し(カットや台詞)の多用が目を惹く。これにより観客は現実感を失い、映画全体に幻想的な雰囲気が漂う。といっても、画面は唐突にかつ多彩な変化を魅せるため、見ている者は終始緊張を強いられる。非常に上手い。

印象的なシーンやカットも多い。まず、バーカウンターでグラスを落とすシーンと回想シーンとが悲鳴を基点に重ねられて編集されているが、このカットの連続にはこれ以上ないと思えるほどに完璧なリズムを感じる。次に、陰鬱なカットが続く中、小走りで部屋を抜けるデルフィーヌ・セイリグをカメラで追い、これを振り切って画面全体に光に溢れた庭園を映すあのカットにはカタルシスを得ることが出来る。他にも挙げるべきシーンやカットがあろうが、多すぎるのでこの辺でご勘弁を。

最後になったが、生来ゴシック建築とオルガン曲の相性はよく、相乗して本作品の映像美に花を添えた。 ただ、音楽をあてすぎてはいなかったか。オルガン曲はその性質上煽情的な効果が強いためその使用にはメリハリをつけるべきだし、本作品であればもう少し沈黙を使ってもよかったと思う。

(評価:★5)

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