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[コメント] 丹下左膳餘話 百萬両の壷(1935/日)

山中貞雄とぼくらの間に結ばれた心温まる約束。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「いやでぃ、いやでぃ」「わたしゃやだよ」と聞くたびににやけてしまう。 山中貞雄は観客との間で結んだ約束を決して違えない人だからだ。

山中貞雄の作品を韻文的といったのは小津安二郎だったが、この作品はまさしく韻文的な作品。 シーンとシーンを静物を通じて重ねたり、同じ台詞に別の意味を載せて使い回したりと非常に面白い。

他の方も言及されていたが、ラストも粋だ。

ちなみに私はこの映画をDVDでも観たが、幻の映像ということでチャンバラシーンが付いてきた。大河内伝次郎が所狭しと大暴れする重要なシーンであって、これが今まで失われていたのか、と驚いた。

失われた、といえば山中貞雄についてはシーンどころではない。 最高傑作と言われた国定忠治や盤嶽の一生の完全版は現存しない。また、マキノ正博が絶賛し幻のシナリオといわれた街角行進曲も映画化されるに至らなかった。そして何より山中貞雄が戦病死してしまったがために戦争が終れば撮ろうとしていたという孫悟空、そしてその後に続いたであろう作品に出会うことはもはやない。

百万両の壺、河内山宗俊、人情紙風船の輝きが時を経るにしたがって失われるどころかむしろより一層増しているのをみると、その悲しみはより一層深くなるのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Myurakz[*] bravoking

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