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[コメント] 007 慰めの報酬(2008/英)

あえて「定番」を捨て去ることで、また一人、魅力的なジェームズ・ボンドが定着した。 とにかく走る、殴る、そして壊す。ダニエル・クレイグ、君は実写版マリオなのか? 大人になった未来少年コナンなのか?・・・肉弾ボンドは、カッコ良過ぎるゼ! 落ち込んだりもしたけれど、ボンドはやっぱり元気です!
SAI-UN

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「ボンド、ジェームズ・ボンド」と自己紹介しない。カミーユとベッド・インしない。Qも登場しない。ウオッカ・マティーニの作り方も気にしない・・・「ジェームズ・ボンド」を登場させる上で「基本的作法」とでもいうべき「定番」を潔く捨てた。ある意味、ファンの期待を裏切ることによって、新しいボンドの魅力が劇的に昇華したんじゃないか? 僕は、こういう裏切られ方が大好きなんだ。

今回のボンドを、”「ボーン」シリーズの二番煎じ”と否定的に言う人もいるようだけど、ジェームズ・ボンドを現代の舞台で蘇生させるために、あえてCGに頼らない「肉弾ボンド」という選択肢はありなんじゃないか?  かつて、SFブームの時、宇宙にまで行ってしまったボンド中佐だが、さすがに「こりゃ駄目だ」と改心して「ユア・アイズ・オンリー」が撮られた。MI6を離れて個人的に苦悩するボンドはカッコ悪いな(と考えたかどうかは分からないが)「スマートさが必要だよね」と言わんばかりにピアーズ・ブロスナンが登場した。 007は、進化している。

そして、世界的な資源・食料の枯渇、未曾有の金融危機に見舞われている現実の今日。 若干オタク気味”ごく普通の容姿”の悪者。紛争のネタが「水資源」というのも、いかにも「現在」じゃないか。 そして「スマートなだけじゃ生き残れない」とばかりに、非情でクールな肉弾ボンドが登場。周囲の情報に惑わされず、自分の能力と勘を頼りに猟犬のようにターゲットを追いつめる。殺るか殺られるかの極限状態の中で、任務と復讐の境界線も曖昧になっていく。味方の中も敵だらけ。いや、そもそも何が敵なのかも判然としない。 そんな混沌とした修羅場の中、カミーユとの邂逅。復讐のためにすべてをかけて戦う彼女に、ボンドは自分と同類の匂いを感じたのかもしれない。・・・ポール・ハギスの脚本には「白か黒か割り切れないジレンマ」が織り込まれている。ただ、繊細過ぎて、ジラしておいてドン!という効果がない。ノンリニア編集の弊害というべきか、アクションやロケの素晴らしさの割に、淡白で盛り上がりに欠ける印象となってしまうのが何とも残念だ。 カット割りと編集に、あと一歩粘ってほしかった。

陽に焼けて逞しいカミーユは、いかにも現代的なヒロインだ。美しく、強い。 そのカミーユと、今回のボンドはベッドインしない。何でなんだ! もったいない!! カミーユの背中には、両親を殺された時に負った火傷の跡が残っている。英語の台詞では「その過去のエピソード」が語られるが、なぜか日本語字幕では省略された。他にも、本作では、字幕が「?」なところが散見され、それが作品全体の「わかりにくさ」に影響しているように感じた。戸田さん、どうしちゃったのかな? 最近の字幕は、文字が大きくなった分、省略の行き過ぎが気になるところだ。

多くの方がご指摘している通り、前作「カジノロワイヤル」を見ていないと、登場人物やストーリー展開を楽しむ上で、はやりハンディとなる気がする。劇場で見る方は、まず前作を鑑賞することを僕もお薦めする。

あと、「ボンドは、こうあるべきだ」という「あるべき」論を忘れて、スクリーンに向かおう! その方が、断然楽しいよ〜。 ファンと称する外野の意見を聞くこと(これをマーケティングと言ったりする)は、会社の営業上は必要だ。けれど、制作者がファンの声に耳を貸すようになってしまうと映画はロクなことにならない。「ゴジラ」がいい例だろう。 なぜなら、観客は(少なくとも僕は)、今まで見たこともないようなワクワク、ドキドキ、または心に響く感動を求めて劇場に足を運ぶのだ。けれど、ファンと称する人たちの「ボンドはこうあるべき」という固定観念は「今まで自分が見て気に入った」シーンなり台詞なりから妄想された幻みたいなもの。そこからは斬新なアイデアなんか生まれっこない。 仲間とネタを語らって楽しんだり、それらが「感想」に留まっているうちは害はないけれど、行き過ぎて「新しい試みへの否定」になってしまうと、本来「映画として面白いのか、つまらないのか」という本題を見極める目が曇ってしまうような気がする。

「自分が知っている範囲」の台詞やシーンの羅列を見て安心したいのなら、「水戸黄門」でも見てればいい。

そんな取り留めのないことをブツブツ考えながら、 「慰めの報酬」を観た夜、思わず腹筋運動なんかしてしまいました。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (10 人)Orpheus chokobo[*] ドデカプリオ[*] きわ[*] けにろん[*] TM[*] プロキオン14 おーい粗茶[*] ぽんしゅう[*] ジェリー[*]

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