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[コメント] デスペラード(1995/コロンビア)

確かに『エル・マリアッチ』では予算の都合で我慢していた諸々を一気に炸裂させた解放感はあるが、ハングリーさ、哀愁、ユーモア、埃っぽく乾いた空気感、これらは多分に損なわれている。痩せた狼が、良い餌を食ったシェパードになった観。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







サルマ・ハエックの、鋭角的で少し突き出た顎が色っぽい。アントニオ・バンデラスの、暗い情念のこもったギョロ目を、長い髪の下から覗かせる登場シーンも迫力がある。が、この、モデルのような美男美女の登場や、血糊と炎と破片が景気よく飛び散るアクション・シーンなど、金を掛けて作り込んでいるせいで却って、前作の、貧乏臭さと引き換えに手に入れた、乾いたリアリティが雲散霧消してしまっている。

また前作では、主人公のマリアッチ(歌手)が、自分と偶然にも似たような格好をした、ギターケースを抱えた殺し屋と間違われて追われる、という巻き込まれ型の話であったのが、今回は主人公自ら火種を持ち込む形になっている。この事で失われたものが三つある――1.平凡な青年がマフィア達の攻撃の手から逃れられるのか、という緊迫感。2.気のいい青年がプロの犯罪者どもに追い回される事による、コメディとしての味わい。3.歌手として身を立てようとやって来た彼が、その純朴な夢を奪われていく哀しみ。

また、台詞がスペイン語ではなく英語なのが痛い。やっぱりあの独特の音の響きが耳を心地よくくすぐっていてくれたのだと改めて思った。編集の洗練度はさすがだけど、前作での音とショットのアンサンブルに見られた緻密さは影を潜めてしまった観がある。一応はこの監督らしさは残ってはいるものの、概ねハリウッド映画の通常の文法に従属してしまっている。延々と同じテンションで続くアクションには途中で飽きてきた。

エル・マリアッチ』に書いたレビューの末尾に、僕はこう記していた。「才能は、金を積んでも手に入るものではない。これこそ、映像作家の真の資本」。この真の資本は、予算の乏しさという逆境にあってこそ十二分に花開いたのだろうか。ロバート・ロドリゲスの他の作品は、まだ観ていないので、確かな事は言えないけど。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)赤い戦車 Sigenoriyuki ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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