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[コメント] シークレット・オブ・モンスター(2015/英=仏=ハンガリー)

重厚そうな画と不穏そうな音でゴリゴリ推して参るコケ脅し的演出から漂う芸術家気取りが鼻につくが、実際には画面内で何事かが起こっているという気配が希薄で、映画自体が癇癪を起しているかのよう。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







少年が父親の命令口調をオウム返しする行為が暗示する、父の権威主義的態度を父の権威に逆らって反復するさま。母の、息子を母として愛するというより、教会の新しい信徒として育て上げることにしか関心がなさそうな姿勢。少年が冒頭で教会に石を投げつけたあとに逃げ走って転ぶのと、終盤、晩餐の席で神を冒瀆し母に暴力を振るったあとでまたも走って逃げてからパタンと倒れるという反復。最初のパタンではお美しいご尊顔にケガをしていたが、あとのパタン後では精力の塊りのようなオッサンと化すということ。美しい容姿から少女と間違われる少年がそのたびに「僕は男だ」と反撥するという、自らの雄性の主張。こうした諸々が、最終的には自らが父権的権威の象徴かのような禿頭大髭の魁偉と化し、自身を讃える教会のような政治的権威を現出させる伏線となるわけだが、こうした「独裁者の生い立ち」ってNHKの番組とかでよく見るなぁという既視感しかない。ヘミングウェイが少年時代は女の子の格好をさせられていたなんて話もありましたね。原案の小説を書いたサルトルもか。

ラストシーンでかつての少年は、車を降りて自らの脚で立つ姿を群衆の前に見せるが、その姿を遠目に捉えるという、いかにも「ドキュメンタリー性」を狙ったかのような胡散臭いカメラがやたらブンブン振り回され、全篇通して喧しかった音楽もここぞとばかりに絶好調でヴンヴン唸りまくるという空疎なヒステリー的痙攣。

どうせコケ脅しをやるのなら、少年を問答無用の完璧美として画面に焼きつけ美の暴力で観客を圧倒してみろよ。冒頭部では暗い画面であったり少年に正面を向けさせなかったりと、やたら勿体ぶって顔をハッキリ見せないが、最初に彼の顔がハッキリ映ったカットがどんなだったか思い出せるほど印象に残っていない。勿体ぶってはいるが、決定的な映画的出来事は起こらない……、それがこの作品の致命的欠陥。

(評価:★2)

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