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[コメント] her 世界でひとつの彼女(2013/米)

肝心の彼女(スカーレット・ヨハンソン)が画面に現われないという映像的寂しさ、欠落感は、肉体を持たない彼女というテーマに直結する。そこは意識的な演出なのだろう。その気になれば、劇中のゲームのように、擬似的な映像は用意できるはずだから。
煽尼采

ホアキン・フェニックスは代筆業を生業にしているが、コンピューターに向かって喋ったら、自動的に手書き風の手紙にしてくれるという、肉声、肉筆、という肉体を伴うはずの行為がデータ化している社会もまた同時に描かれている。心のこもった手書きの手紙、を装ったものを業者に発注してコミュニケーションが行なわれている社会。

だからといって、ありがちな、冷たいデータ社会という描かれ方はされていない。単純に、人とコンピュータの垣根が曖昧になった社会ということだ。主人公が勤める会社内も、同僚同士で親しげな会話が交わされているし、非人間性を示す要素は特に見当たらない。

ヨハンソンの声は、機械的な完璧さとは遠い、かすれた、生々しい肉体の存在を感じさせる声。話す内容も含め、魅力的な声だが、声でしかないということ。声だけの存在の肉体性を観客に感じさせようという演出上の冒険は、映画内での、コンピュータと人の恋という冒険そのものでもある。

(評価:★4)

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