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[コメント] ポテチ(2012/日)

空巣が主人公だが犯罪のディテールは蔑ろ。「代打」というテーマの都合上要請された設定でしかない。それは構わないが、犯罪には当然、被害者がいるわけで。何かを「奪う」側面を孕んでいる筈の状況が「代打」という一テーマに収束させられることの違和感。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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DNA云々の話で、同じ原作者の『重力ピエロ』を想起した(重力、といえば、冒頭の会話でニュートンの話も出てくる)。今作では、忠司(濱田岳)の父親の存在が綺麗さっぱり無視されることで、血縁にまつわる関係性の複雑さを回避。それはいいとして、忠司が母・弓子(石田えり)に対して気にしているのは、彼女が本来ならもっと優秀な息子を持てたのではないかということらしく、血を分けた息子だと思っている自分がそうではない、彼女の夫の血とも関係が無いのだという事実が彼女にとってどういう意味があるのかという悩みは、これまた綺麗さっぱり無視。

恋人・若葉(木村文乃)が、注文していたポテチと違う方を渡されたことに気づいた直後は怒りながら、これはこれで美味しいと、取り違えを幸運として肯定するシーンで、忠司は涙するのだが、この暗喩的なシーンによって、病院における新生児の取り違えをも肯定してしまうというのは、なんだかあまりに主観的な納得の仕方。これを、若葉が忠司の不在中に受けた電話を取ったことで、「代打」として弓子と会い、そのことを忠司に内緒にすることで、弓子が欲しがっていた「娘」の「代打」役を果たすという個人的な関係性を結ぶという、この二人の女性の同一化によって肯定しているようにも見え、なにか詐術めいているように感じる。

空巣に入った家でたまたまかかってきた電話を受けたことで、そこの住人の「代打」として、事の解決に向かう忠司。その忠司の「代打」として黒澤(大森南朋)と若葉が野球の監督(桜金造)に美人局を仕掛けて、結果、弓子の血縁上の息子、尾崎(阿部亮平)は、文字通りの「代打」としてマウンドに立つ。

黒澤が美人局カップルを脅すのに使う話も、村の災いを除くための生贄という、これまた「身代わり」のテーマ。更には、村から犠牲者を出すのを嫌って、よそから「代打」を求めているという話を、脅しとして使うということ。やろうと思えば黒澤と若葉のコンビでも美人局を仕掛けられるが、そこを美人局カップルに「代打」を務めさせているとも言える。ホテルで黒澤が、詳しい話は部屋で、と若葉を誘うシーンで、若葉が抵抗感を示すことや、美人局カップルの女(松岡茉優)が、監督を騙した後で男(中林大樹)に抱きつくところなど、美人局という行為が、女を生贄にしていることを感じさせる。

忠司が、ニュートンによる万有引力の法則や、三角形の内角の和が全て180度というのを、人類初めての発見として黒澤や若葉に話すシーンは、既に誰かが「代わり」にやってしまったことであっても、それを自らの力で成し遂げることの意義を示す。これは、「ただボールが遠くに飛んでいくだけ」のホームランの価値とも、相通ずるものなのだ。つまり、彼は彼であって、他の誰とも代わり得ない存在なのだということ。

「万有引力=落下する球体⇒重力に抗って飛んでいくボール(ホームラン)」とか、三角形の「内角」といった、野球に連想をつなげようとしているように思えるところなども、ちょっと面白い。ただ、忠司が尾崎のホームランを全身全霊で促がす行為が内包している複雑な心情が、そのシーンに至るまでの過程で徐々に高められていくような構造にはなっておらず、濱田の、永遠の少年性とでもいったものを湛えているということに一応はなっているのだろう表情演技に全てを委ねすぎている。要は、観客に対しても無条件的な善意を要求している嫌いがあるということだ。

(評価:★3)

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