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[コメント] ジェイコブス・ラダー(1990/米)

ジェイコブ(ヤコブ)のラダー(梯子)の昇降運動。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ジェイコブの息子ゲイブ(マコーレー・カルキン)が死んだ事故のシーンでは、自転車に乗ろうとしていたこの子がカードを落とし、それを拾おうとしてトラックに轢かれる。ジェイコブは、この息子の動作を反復するかのように、ダンス・パーティの人混みの中で怪しい人影を見つける場面では、眼鏡を落としてそれを拾った後に目眩を起こし、高熱を発して死の淵をさ迷う。ベトナム戦争で共に従軍した男と再会するシーンでは、コインが落ちいてたのを拾おうとすると、コインがひとりでに動いて消え、男が乗った車は爆発してしまう。

こうした「反復」は他にも幾つか見られる。精神病院と思しき不気味な院内で、倒れた自転車を見つけたジェイコブが「ゲイブ」と叫ぶのが、後の、事故の回想シーンでの自転車に繋がっていること。ダンスパーティでの目眩のシーンで飛び立った鳥と、化学者との密会シーンで飛び立つ鳥。この鳥とも関係してくるだろうが、ジェイコブを治療しようとする人間が彼を見下ろすショットや、戦場シーンでの、銃剣で腹を裂かれたジェイコブが見上げる、森の木々など、「梯子の上=天国」を向いた画(ジェイコブが整体師のことを「天使」と呼ぶのもそのせいだろう)。

ジェイコブが遂に見つけた科学者が言うように、ラダー(梯子)の下が「恐怖と怒り」。梯子の上は、ラスト・シーンでの亡き息子とジェイコブの再会の光景が、階段による高低差によってドラマチックに演出されていることから分かる通り、「死・天国」。この梯子を上り下りするかのように、過去と現在、現実と幻覚の間を往き来するジェイコブ。

愛人が、ジェイコブの息子から送られてきた写真を捨てたり、元妻のことを「ビッチ」と呼んだり、サンタに、ゲイブの写真ごと財布が盗られたり、「帰国後」を描くシークェンスでジェイコブは、家族の記憶の喪失という事態と向き合う。それはまた、ゲイブの死と、家族との別れとしての自分の死という、喪失の事実を受け入れるまでの闘いと言うことができるだろう。

(評価:★3)

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